第12話 初恋の相手
「動揺したね? やっぱり彼女のことは今も気になってるんだ」
(落ち着け……)
そう自分に言い聞かせて深呼吸をした後で、信楽の胸ぐらを掴んでいる手を離した。
「ほ……本当、なのか!?」
「もちろん! だって僕がこの目で確認したんだから間違いないよ!」
「……橘琴葉を今どこにいるんだ?」
「それは教えてあげられないなぁ……」
俺は拳を強く握りしめる。
「橘琴葉の居場所を答えろ! 信楽!」
「う~ん。それは――」
信楽が何かを言いかけたところで、突然横から誰かが割って入ってきた。
その人物とは――。
「何してんだよ、日向……つうか、この人誰?」
トイレに籠っていた隆介だった。
「僕は坂柳くんの元お友達だよ! それより……君が坂柳くんのお友達かな?」
信楽は隆介のことをじっと見つめている。
「ああ、そうだけど……」
すると、信楽は突然笑い出した。
「ぷっ……! あはははははっ!!」
「……どうして笑うんだ?」
「いや、だってさぁ……君みたいな冴えない奴が、坂柳くんと友達とかありえないでしょ! 身の程をわきまえた方がいいんじゃない?」
(こいつ……!)
俺は拳を強く握りしめたが、なんとか耐えることに成功した。
「とりあえず~、坂柳くん……また会おうね!」
そう言って信楽はその場を立ち去ったのであった。残された俺と隆介は呆然と立ち尽くしかなかった。しかし、その直後――俺は我に返ったことで怒りが込み上げてきたため、勢いよくテーブルを叩くと……隆介に腕を掴まれた。
「落ち着けって……な?」
「ああ、すまない……」
俺が冷静さを取り戻すと、隆介が掴んでいた腕を離してくれたため、再び椅子に腰を下ろしたわけだが……その間ずっと心臓の音が鳴りっぱなしだったことは言うまでもない。
「あいつ、何者なんだ?」
「……高校時代の同級生だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そっか。なんか嫌な奴だったな……」
「ああ……」
「何を話していたのかは知らねぇけど……本来の自分を見失うなよ」
「隆介……ありがとな」
「一応、俺とお前は親友だからな」
「ああ、そうだな……」
☆★☆★
大学の講義が終わり、隆介と別れた俺は……大学の近くにある公園のベンチに缶コーヒーを持ちながら座っていた。
「本当に……橘琴葉は生きているのか? 信楽が嘘をついている可能性だって……」
(だけど、もし本当だったら……)
俺は缶コーヒーを一口飲む。
そして、空を見上げながら3年前の出来事を思い出した――。
3年前――当時高校二年生だった俺は、初恋の相手であるクラスメイトの橘琴葉に想いを寄せていた。だが、そんなある日……転校してきた男子生徒がいた。その男子生徒の名は――信楽湊。しかし、俺は信楽のことを好きになることはなく、むしろ嫌いだったと言えるだろう。
なぜなら……信楽は俺に対して嫌がらせばかりしてきたからだ。
どうして俺に嫌がらせをしてきたのかは分からないが、最初は無視をしたり、陰口を言ったりする程度だったが、次第にエスカレートしていき……ある時は、俺が大切にしていたものを盗んでいったり……またある時は、俺の靴箱にゴミを入れたりと様々な嫌がらせを受けた。
もちろん俺は反論したが相手にしてもらえず、途方に暮れる日々が続いたため、次第に精神的にも肉体的にも疲弊していった結果――ついに耐えきれなくなってしまい、信楽の胸ぐらを掴んで怒りをぶつけた。しかし、それでもなお信楽の態度が変わることはなかったので、俺は更に激高してしまい、殴りかかろうとしたところ――橘琴葉が割り込んできたのだ。
「坂柳くん、今まで助けてあげれなくてごめんね……。信楽くん! これ以上、坂柳くんをいじめたら先生に言うよ!」
「チッ……! わ、わかったよ」
橘の言葉に信楽は舌打ちをしながらも、渋々といった様子で引き下がったのだった。俺はその隙になんとか怒りを鎮めることができたのだが、そこで安堵してしまったことが良くなかったのかもしれない。
その日以降、信楽の嫌がらせ行為はピタリと止まったのが、その代わりに今度は橘琴葉へのアプローチが始まったのだ。しかもそれは日に日にエスカレートしていき……最終的にはストーカー行為を行うようになっていた。俺は信楽にストーカー行為をやめるように言うと、信楽は口角を上げて俺にこう言ってきた。
「坂柳、君さぁ……もしかして橘のことが好きなの?」
「はあ!? い、いきなり何を言って――」
「分かりやすいなぁ……。そうか、君も橘のことが好きなのか……」
「信楽、お前……今、なんて……」
「聞こえなかったのかい? 君は頭だけではなくて、耳まで猿以下なんだね。仕方ない……特別にもう一度言ってあげるよ。僕も橘のことが好きだ……」
俺は信楽の言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。まさかこいつが橘のことが好きだったなんて思いもしなかったからだ。しかし、それと同時に一つの疑問が浮かんだ。なぜこいつはわざわざ俺にそんなことを言ってきたのだろうと……。その答えはすぐに出た――俺を挑発するためだ。その証拠に、俺が動揺している姿を見て楽しげに見ていたからだ。そして、俺は思った……こいつには負けたくないと――だからこそ俺は覚悟を決めて言葉を紡いだ。
「お前には絶対に渡さない! 橘琴葉は俺が幸せにさせてみせるッ!」
すると、信楽はニヤリと笑みを浮かべてこう言ってきた。
「それじゃあ勝負をしよう! 僕と君、どちらが先に橘を手に入られるかをね……」
こうして俺と信楽による橘の取り合いが始まったのだった――。
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