魔王城さんと少女

鹿

魔王城さんと少女

 【魔王城】。それは、魔王と称される魔の王が住まう城。もし、そう定義するのであれば、我は既に魔王城ではない。

 我は、かつて魔王城と呼ばれた城、【フリッガー・フィレール城】。当時の魔王の出身地域の言葉で、[太陽の微風の城]という意味である。

 その魔王が、人間界に遠征して死亡してから、早352年の月日が流れた。我は、主だけでなくその配下たちも失い、もはや城としての意味はなくなった。

 そして今日も、陽光を浴びながら高地特有の吹き上げる風に身を晒しつつ、遥か彼方の人間の街を見つめている……。


「はっ、はっ、はっ」


 ……なんだ、あれは?

 すぐ近くの森に、ぼろぼろの服に身を纏った少女が駆けている。見るに、人間のようである。

 薄い茶髪をポニーテールに纏め、ピンク色のワンピースの下に白い半そでTシャツという、非常に軽装。にもかかわらず、背負っているのは大きなリュックサック。しかも、わざわざこんな僻地まで登ってくるとは、よほどのことである。


「バウバウ!」


 その後ろに、魔獣であるフォレストウルフが3匹。どうやらいい餌を見つけたと思い襲っているようだ。このままなら、しばらくもせずにグロテスクな映像がお届けできるだろう。

 ……我が主の仇ではあるが、もはや憎悪の念はどこにもない。ここは、人助けと興じてみようか。

 久々に、話せる相手が欲しかったところだ。


 我は、北北東にある第二尖塔の頂上部に設置されている魔導兵器を起動する。

 これを動かすのは200年振りだろうか。隕石の迎撃に使った覚えがある。

 紡錘形の塔の最上部が、六つのピースに分かれて開き、そのまま塔の下へと格納されていく。そして現れたのは、巨大な筒のように見える大砲。筒の左右で塔と接続されているわけだが、その部分が床ごと旋回して少女たちの方へ大砲を向ける。


 目標、フォレストウルフ。魔力炉、出力一割で稼働開始。出力安定、第二尖塔までの魔法回路、オールグリーン。魔導兵器【シェゲド】、発射用意良し。

 地下深くの魔力炉から魔力が沸き上がり、筒から光が漏れ出る。


「あうっ!」


 少女がこけた。出力が足りないが、このまま撃ってやるしかあるまい。


「ガルル…」

「ひっ……」


 【シェゲド】、二番砲塔、発射。

 途轍もない量の煙が二番尖塔の砲台後方へ吹き出て、同時に光の柱が森に突き刺さる。


「ガゥ…」

「グル…」


 フォレストウルフは1匹が直撃、2匹はなんとか防御を間に合わせたらしい。彼らは死んだ1体を1匹が口で咥えて、森の奥へ帰って行った。


「はう……」


 少女は…腰を抜かしているようだ。そのままだとまた魔獣に襲われて食われてしまうだろう。せっかく助けてやったというのに、死なれるのはあまりに後味が悪い。

 我は城内の集団墓地に魔力を移し、ある魔法を発動する。


 禁呪【サルトゴ・ナーレ】。死者の送還である。

 この魔法は、一般的には魔王のみが使うことのできた禁呪と考えられているが、正確には我も用いることが出来る。死者の骨に残った残留魔力を依り代に魔力を増強し、あたかも生きているように活動させる魔法だ。

 スケルトンと呼ばれる骨の兵士を3体ほど作り、少女を迎えに行かせる。

 かたかたと、しかし綺麗な歩みを描くスケルトンたち。皆鎧を身に纏っている。かつては我と共に戦を共にしたことのある兵たちだ。頭蓋骨から生えた角が、彼らの生前を物語っている。



 しばしして。


「はーなーしーてー!!!」


 少女はスケルトンに搬送されていた。が、抵抗していた。まぁ、見た目モンスターだしな。とはいえまだ腰が抜けているようで、じたばたこそしているがそこまで激しくはない。

 スケルトンはしっかり役目を全うして、我の広間へと少女を連れて来た。


「こわい! なにここ!」

「…怖いとは酷な事を言う」

「ふぇっ!?」


 割と傷ついた。魔王の趣味が随所に盛り込まれつつも、芸術性と実用性を強く意識して建立された近代建築の最高峰、それが我だ。

 その我に対して怖いだなどと、無礼にもほどがある。最下層の魔力炉近くに埋められた12人の設計者に謝って貰いたいところだ。


「だ、誰…?」

「我は、フリッガー・フィレール城。この城そのものである。或いは、魔王城と言った方が良かろうか」


 我は、淡々と名乗りを上げる。ちなみに発話については魔法を用いて城内の空気を振動させることで起こしているから、口のような器官は存在しない。


「お城って…喋るの?」


 ……どうなのだろう。我は普通に喋れるが、残念ながら移動できないものだから実際に他の城を見たことはない。一応他の城の映像などはここからでも得ることができるのだが、それでも確かに音声は聞いたことが無い。

 ……もしや、我が異常なのでは?


「……喋るものだ」

「すっごーい! お城とお話しできるなんて!」


 取り敢えず喋るものということにしておこう。他の城も喋ろうとしないだけで喋れるかもしれない。そういう理屈をつけて、我は少女に嘘を吐いた。


「それで、人の子よ。何故に汝はあのような森へ? 人の里は遥か彼方、わざわざ危険な森へ入ることも無かろうに」


「んーとね、私のお母さんとお父さんと一緒にお引越ししようとして道を馬車で進んでたら、さっきのオオカミさんに襲われて……」


 なるほど、父母を失ったか。

 少女のトーンが段々と下がっていき、やがてうつむいてしまったことから我はそう推察した。


「…う…うぅ……お母さん……お父さん……会いたいよぉ……ぐすっ…」


 我に手はない。この少女を、人肌で温めてやることはできない。それがどれほどもどかしいことなのか、我はこの時初めて知った。かつて魔王が言っていた。


『お前はいつか、〈愛〉を知るだろう。だが、それは恐らく、俺の死んだ後だ』


 ……この感情が、彼の言う〈愛〉なのだろうか? その答えを、我は知り得ない。だが、我はこの少女を、せめてここにいるうちは守ってやろうと決めた。


「……住まう場所が無いなら、我に住まうと良い。」


 これは、主亡き城と、家無き少女の物語。




 ・後書き

 どうも、筆者です。後書き書いてみることにしました。

 続きを書けるかはモチベに依存するので、PV,♡,☆,コメントが多ければ多いほど続きやすくなりますかね。

 次回は…1000年後でどうだ?()

 最悪これで完結します……だから評価してね……。

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