ずっと好きだった幼馴染みに恥ずかしく冷たく接してたらいきなり交通事故で死んだ
無色
第1話
8月10日。お盆には少し早いその日は今年一年の猛暑だった。太陽の日差しが痛いくらいに肌を突き刺し、アスファルトからは暑さのせいで陽炎が見える。
確かあの日もこれくらい暑かった気がするな。
そんなことを考えながら紫音はとある墓石の前まで来る。
最初こそ多くの友人たちが来ていたこの場所も今となっては紫音ただ一人になってしまった。
紫音は手に持った花と手桶を地面に置くとその場にしゃがみ、両目を合わせ目を瞑る。
目を閉じれば瞼の裏に映るのはあの日の公開だ。
あの日私があんなことを言わなければ彼はまだ私の横を歩いてくれていたのだろうか…。
◇◆◇◆
「あーあ、ちょっと買いすぎちゃった」
紫音は両手いっぱいに持った買い物袋を腕にさげ、ショッピングモールの中をぷらぷら歩いていた。
当時の紫音は高校1年生。高校初めての夏休みということもあり紫音は少々浮かれていたのかもしれない。
紫音はショッピングモールの中にあるベンチへと腰掛けるとカバンからスマホを取り出す。
「もしもし私だけどちょっと荷物がたくさんあるから来てくれない。え?今ちょっと手が離せない?何言ってるの、これは命令よ。あんた私の命令に逆らうっていうの?そう、それでいいのよ。あんたは私の言うことだけ聞いてればいいの。わかったら早く来なさいよ。私待つの嫌いだから30分以内に来なさいよね」
電話越しに相手が何か言っているようだったが紫音はそれを無視して電話を切る。
紫音が今電話していた相手は幼稚園からの幼馴染み
紫音と真夜は幼い頃からずっと一緒にいた。幼稚園の頃も小学生の頃も、中学生の頃は思春期のせいか少し距離があったものの高校生になった今は学年内では誰もが知る中だ。
とわいってもみんなの解釈は優しい紫音が陰キャで根暗な真夜の相手をしてくれているというものだ。
紫音の容姿はかなりいい。クラスメイトのほとんどの男子が紫音に好意を寄せている。それでいて性格だっていい。皆んなに優しく、率先して前に立ち、皆んなを導く。そんな紫音は男子からだけではなく女子からの人気だってある。
だからこそそんな紫音とずっと一緒にいる真夜に対してあまり良く思ってない人は数多くいる。
それでも真夜に取り入れば紫音と話せるチャンスがあるかもしれないと上部だけは真夜と仲良くする人は多い。
そんなことがあってか紫音は若干調子に乗っていたところはあった。
昔なら対等に接していたはずなのに今となっては従者のような扱い方をしている。
「可愛くて人気のある私と陰キャで根暗なあんたが対等になれるはずないじゃない」
その言葉は高校に入ってから紫音が真夜に向けて最初に言った言葉だ。
「幼馴染みだからあんたがクラスでいじめられないように面倒は見てあげるけどその間あんたはずっと私の奴隷だから。私の命令は絶対。いい、あんただっていじめられたくないでしょ?」
その言葉に真夜は黙ることしかできなかった。
正直この頃から紫音は真夜のことが好きだった。本当はもっと一緒にいたい、他の男子なんてどうでもいいから近くにいて欲しい、そんな思いがあったがそれを口に出すのは恥ずかしかった。
だからこそのあの言葉だ。
側から見ればとてもじゃないがあまり良いものとは言えない。しかし紫音の中では真夜と一緒にいたくて必死に出した言葉だった。
一緒にいたい、だけどそれを言うのは恥ずかしい。かといって離れられるのは嫌。そんな思いが入り混じった言葉。
紫音は信じていた。真夜も自分のことが好きなのだと、私たちは両思いなのだと。だからこそ彼は何も言わずに私に従ってくれる。本当は真夜だって私と一緒にいれて嬉しいはず。例えどのような形でも側にさえいれればいいはず。そんな自分勝手な妄想で今日もまた真夜は呼びつけたのだ。
◇◆◇◆
「もー、どれだけ時間経ったと思ってるのよ!」
あれから2時間が経過した。
紫音がどれだけ待っていても真夜は未だに来ない。何度電話をかけてもそれすら繋がらない。
遅れてくることはわかっていた。
真夜の家からこのショッピングモールまではどれだけ頑張っても50分はかかる。
それでもあえて30分と言ったのは遅れてきた真夜に約束を守れなかったと称して何かお願い事を聞いてもらおうという魂胆があったからだ。
真夜ならそんなことをしなくても命令すれば言うことを聞いてくれる。それはわかっていた。とはいえ真正面から命令するのも少し恥ずかしいのだ。
だからこそ約束を守れなかったという理由をつけてどこかデートでも誘おうかなと考えていた。
もちろん「遅れたんだから今度デートに付き合いなさいよ」なんて言い方はしない。本当はそう言いい気持ちはあるが真夜を目の前にしたら「荷物持ちにするから今度は最初から付き合いなさいよ」と言ってしまうだろう。
デートができるとウキウキしていたその気持ちは2時間経っても未だ来ない状況にイライラする気持ちに変化していた。
最初こそ電車でも遅延しているのかもしれない。なんて考えていたがそれならあっちから連絡があるはずだ。それに電話にでない理由にもならない。
「あいつ私の命令無視したわね」
そうだ、ここまでこないのならそれしかあり得ない。
真夜が命令を無視するなんて初めてのことだったためにそのことに至るまで2時間も待ってしまった。
紫音はイライラする気持ちを今はグッと堪えてそのままショッピングモールを出た。
◇◆◇◆
「ただいまー」
ぶら下げていた重い荷物を玄関に置くとそれをそのまま放置してリビングに入る。
外はかなり暑く、多くの荷物を持っていたせいでかなり汗をかいた。
冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出すとそれをコップに入れて一気に飲み干す。
一度だけでは完全に喉が潤わなかったためにもう一度コップに麦茶を入れまたしても一気に飲み干す。
2杯も飲めば喉の乾きもだいぶとれてきた。
今度は襟元の服を少し引っ張って服の中を見てみる。
かなり汗をかいたせいか服が若干体にへばりついて気持ちが悪い。
紫音は風呂場に向かうために廊下に出た。
それと同時にすぐ横にある玄関の扉が開かれ、そこから母親が現れた。
母は顔を俯かせ、ハンカチで目元を拭っている。
普段なら何かあったのかと気づくところだが今の紫音はイライラしているために他人の様子を伺うほどの余裕はない。
このイライラを誰かに聞いてもらいたいという思いがあったためかちょっど目の前にいた母親にそのことをつい口に出してしまった。
「お母さんおかえり。ねぇ聞いてよ、今日さ真夜と買い物する約束したのに真夜全然きてくれなかったんだよ!結局2時間も待ったのに来てくれなくて一人で買い物済ませちゃったよ。ねぇ、お母さん聞いてるの?」
母親は未だ俯いているせいか紫音の話など聞いてないように見える。
紫音のイライラはさらに加速する。
ドタドタと大きな足音を立てながら母親に近づく。
母親はその時ようやく紫音の存在に気付いたのか、俯いていた顔を上げ、紫音を見つめた。
紫音はそんか母親の顔を見て足を止めた。
その顔はひどく疲れているように見えた。目の端からは未だ涙が流れ、顔はすごくやつれている。
そんな顔を見て紫音はようやくただ事ではないと気づいた。
「お母さん?」
紫音は恐る恐る母親に話しかける。
母親の焦点は紫音に固定されたまま動かない。
そしてしばらくの沈黙の末ようやく母親が小さく口を開いた。
「あんた、真夜くんがさっき交通事故で亡くなったって」
「は?」
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