第41話 凛との時間。


 「ただいま」


 玄関のドアをあけた。

 すると、飼い主に気づいた子犬のように、パタパタと凛が降りてくる。


 なんだかモコモコのパジャマみたいなのを着ている。ピンクも良く似合うなぁ。可愛すぎる。


 凛はスンスンと俺の匂いを嗅ぎ回る。

 麻薬探知犬ならぬ、浮気探知犬!?


 凛が俺の首筋まで到達した時。


 「……オンナのニオイ」


 凛さんこえぇ。

 ジト目で見てくる。


 「ふーん。……琴音ちゃんか」


 鋭すぎる。なぜわかる?

 霊感ですか?


 俺は観念して、事情を説明した。

 

 琴音の悩みを聞いたこと。

 気晴らしに遊びにいったこと。

 

 悩みの内容については、個人的な内容すぎるので話さなかったが、凛も聞いてこなかった。


 「……凛、怒ってる?」


 凛はため息まじりに答えた。


 「そんなに目を腫らしてきて浮気も何もないでしょ。いいよ、別に。嘘ついていないなら」


 観覧車で琴音に足を開かれたことは、さすがに言ってないので、やや胸が痛むが、詳細はプライバシーてきに省略ということで。


 凛は垂れてきた前髪を描き上げた。


 「いま、誰もいないから、わたしの部屋においで」


 凛の部屋に久しぶりのご招待だ。


 「えっと、シャワー浴びた方がいいかな?」


 「そのままでいいよ」


 凛は俺を下から覗き込むと言った。


 「……なに期待してるの? へんたい」


 凛の部屋に入る。


 いつものようにシャンプーの良い匂いがしてきた。凛は正座になって、太ももをポンポンとする。


 「膝枕してあげる。ここに寝て」


 凛の膝枕は、優しくて温かかった。

 凛は前屈みになる。すると、凛の髪の毛が俺の顔にかかり、くすぐったい。


 「琴音ちゃん、悩み事ありそうで気になってたんだ。れんくん、偉いね。今日はおつかれさまでした。……わたしも、出来ることがあったら手伝うからね」


 俺はなんか目頭が熱くなるのを感じた。俺が好きになった子は、不器用だけれど、すごく優しくて温かい。


 俺は膝枕をされたまま横を向き、凛の腰に腕をまわすと、凛の下腹部のあたりに顔を押し付けた。すると、凛の甘い匂いがしてくる。


 「もう、甘えん坊なんだから」


 凛は俺の髪の毛を撫でてくれる。


 「凛の匂いがして、落ち着く……」


 凛はニコニコして問いかけてきた。


 「どんな匂い? シャンプーかな?」


 凛にお腹の下辺りに顔を押し付けながら、つい、本音が漏れてしまった。


 「甘ったるいエッチな匂い……」


 (ゴンッ)


 突然、膝を抜かれて、頭が床に落ちた。


 「いてて。なにすんだよー」


 凛は真っ赤になっている。

 

 「ど、どこ嗅いでるのよっ。あぁ、やっぱ言わなくていい!! 調子にのりすぎ!! 変態っ」


 俺は凛とこうしてる時間が一番好きだ。


 もし、凛と姉弟のままだったら、いつか凛は好きな人を作って、俺の手の届かないところにいってしまうのだろうか。想像しただけで胸がギュッと苦しくなる。


 凛の誹謗は続いている。


 「レンくんのエッチ!! もうお嫁にいけなくなっちゃう……」


 「なら、行くなよ。ずっと俺と居たらいいじゃん」


 凛は口を手で押さえている。


 「れんくん。それって、どういう……」


 やばい。恥ずかしすぎて死にそうだ。


 「ごめん、風呂いってくる!!」


 俺は居たたまれず凛の部屋を出た。



 そして、俺は今、例の如く、タオルを巻いて脱衣所の椅子に座っている。思えば、ここに座るたびに、何かしらのドラマが起きてるな。


 さっきは、つい気持ちがダダ漏れしてしまった。凛はどう思ったかな。ひかれてたりしたら、どうしよう……。


 すると、脱衣所のドアがノックされた。


 凛の声が聞こえてくる。


 「ね。一緒にお風呂入ろ……?」


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る