第32話 高尾山ケーブルカー。

 (プシュー)


 車体がガクンと揺れ、ケーブルカーが終点に着いた旨のアナウンスが流れる。


 俺は、なんだかドギマギしてしまった。


 「つ、ついたな。早くいこうぜ?」


 しかし、さやかはその場にとどまり、こっちを真っ直ぐみる。


 「れん。わたし、まだ答え聞いてない」


 俺は胸のドキドキを悟られないように、そっけなく言った。


 「俺ら幼なじみじゃん。もちろん、お前が困ってたら、いつでも助けるよ」


 さやかは口を尖らせた。


 「……30点」


 「えっ?」


 ドアが開いた。すると、みんな我先に出ようとし、車内は奔流のようになった。さやかは、人混みに流されないように、俺にしがみついてくる。


 チュッ。


 偶然だろうか。人混みに押された彩の唇が、俺の頬に触れた。俺が頬を押さえると、さやかはウィンクのように目を閉じて舌を出す。


 「まだまだ赤点だから、今後の健闘に期待しているよ? ヒーローどのっ」


 そういうと、さやかは駆けて先に出て行ってしまった。


 って、ちょっと待てよ。

 さやかに追いつくと、既に成瀬と加藤もいた。こいつら座席に座ってたくせに、なんで俺より前にいるんだよ。


 さやかは、髪の毛を邪魔に感じたのか、スカーフをカチューシャのように巻いた。頭のてっぺんで結び目がきて、バンダナの余りの部分が動物の耳のように見える。


 ってか、あれ校則的にアウトな気がするんだが。


 すると、成瀬が肩を組んできた。


 「れん、気づいてるか? 周りの男は皆んなさやかのことを見てるぜ? SRレベルの美少女が班にいると、なんだか優越感つーか。気分がいいよな」


 SRって……ソシャゲのガチャじゃねーんだから。


 まぁ、分からなくもないが、ただのクラスメイトだし。でも、やっぱり、さやかは客観的にも可愛いらしい。




 俺は周りを見回す。

 美少女といえば、我が家のSSR級美少女はどうしてるかな?


 あっ。いたいた。凛だ。

 なんか黒縁のメガネをかけているぞ。


 一種の擬態か?

 目立たずに、いい具合に周りの子に溶け込んでいる。


 でも、同じ班の残りの3人とは、あまり話していないし、ちょっと寂しそうだ。心配だけど、俺は、あの3人に嫌われてるからな。話しかけづらい。


 まぁ、嫌がらせされている訳でもないし、様子を見るか。


 

 ここから山頂までは徒歩で40分程らしい。俺らは、どーでもいい話をしながら、ダラダラと登り始める。


 凛の班の3人は、真ん中にいる琴音ことねがリーダーだ。あの3人とは、入学早々、イヤな思い出がある。


 入学してすぐの5月頃。

 加藤は、早くも女子の間で人気者になっていた。まぁ、顔も良いし勉強もできる。当然の成り行きだとは思う。


 琴音も加藤のことが、気になっていたようだ。


 だけど、加藤は俺らと仲良くなり、一緒にいた彩ともよく話すようになった。琴音は、そんなさやかのことを疎ましく思っていたらしい。


 消しゴム。ペン。ノート。


 その頃から、さやかの私物が頻繁になくなるようになった。


 

 

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