第8話 成瀬が家にやってくる。


 御神体事件から、凛がますます冷たくなった。

 目が合うたびに「変態」だの「死ね」だの。


 およそ、おれを人間扱いしていない。


 しかし、俺もやられっぱなしでいるつもりはない。ビシッといってやるのだ。


 「おまえ。ずっとなんなんだよ。そもそも、お前が風呂に毛を残すから悪い……」


 ぐはっ。


 凛が俺に思いっきり回し蹴りを入れた。


 論戦なのに、ファーストアタックが蹴りってどうかと思うぞ。しかも、蹴る時にパンツ丸見えだし。


 ってか、御神体はあのパンツの中からやってきたのか。感慨深いな。遠い旅路を乗り越えて、俺のところまで来てくれてありがとう。


 俺が遠い目をしていたら、凛は何か勘づいたらしい。


 「あんた、また変なこと考えてるでしょ!! ほんと死ね!!」


 「うるさい!! お前こそ御神体返せ!!」


 すると、凛は耳まで真っ赤になった。頭から湯気がでそうな勢いだ。


 「ご、ご、御神体……。そんなに崇め奉るのはやめて!! それにあんなのは捨てたよ!!」


 ちょ、俺の御神体。


 「お前。ふざけるなよ。バチが当たるぞっ!! 今すぐ収穫して、新しいのをよこせよ!!」


 「ばかっ。しね!! もう顔みせるな!!」




 あっ。そういえば。


 「凛。今日、俺の高校の友達遊びに来るから。よろしく」


 すると、凛はさらに声を荒げた。


 「勝手にすれば? わたしには関係ないし」


 いや。関係あるだろ。成瀬なるせはお前を見にくるんだからな。




 (ピンポーン)


 インターフォンがなった。

 

 成瀬がきた。

 最初は断ったのだが、成瀬はどうしてもりんを見たいらしく、どうしてもとせがまれて、今日、うちに来る約束をしていたのだ。


 正直、迷惑以外の何者でもないと思ったが、俺が死体になる前にこのタイミングできてくれたのは助かった。


 「はーい」


 俺は玄関ドアを開ける。

 すると、成瀬の陰からかえでがひょこっと顔を出した。


 楓もどうしても来たいと駄々をこねたらしい。

 成瀬は「迷惑なヤツ」だと言っていたが、俺から見れば、お前も楓も似た様なもんだがな。


 「よっ。蓮。これお土産のケーキ」

 楓が紙袋を差し出した。


 猫っかぶりな凛は、紙袋を丁寧に両手で受け取ると、お辞儀した。


 「ありがとうございます。初めまして。凛といいます。今は、この家でお世話になっています」


 すると、成瀬はウヒョーと大騒ぎになり、「どストライク!!」と連呼した。


 ……ごめん。凛。お前の指摘の通り、やっぱ、男子はIQ低いのかもしれない。

 

 しかし、俺を安心させるべく女子代表の楓が口を開いた。そうだ。コイツがいたんだ。IQの低さはきっと男女平等だ。


 「あれぇ。あなた。この前、バイト先にきてジェラシーしてた子だよね?」


 おい。楓。

 せっかく小康状態になった凛を刺激するのはやめてくれ。


 「いえ。人違いかと……」


 俺は、おそるおそる凛を見てみる。

 すると、ほら。なんか頬のあたりが引き攣ってるし。


 お前らの失言は、後で全部、俺に戻ってくるんだからな。慎重にお願いしますよ。慎重に。


 楓が何か言い返そうとしたので、俺は咄嗟に、楓の口を塞いだ。

 



 ここに長居は無用だ。

 俺は2人を部屋に通す。


 2人は、俺の部屋に入った瞬間にエロ本を探し出す。


 成瀬はセーラー服もの。

 楓はBLを探しているようだ。


 ほんと。何しにきたのお前ら。

 早々に帰って欲しいんだけど。


 楓が野生の勘で、押し入れの奥に手を入れた。


 ちょ、そこはやめて。

 俺が静止するよりも早く、楓はエロ本を見つけ出した。


 こうして俺のお宝が掘り返されたのだった。

 しかも、2人とも露骨に『つまんねぇ本だな』って顔してるし。


 

 トントン。

 ドアがノックされる。 

 

 「失礼します」


 凛がお茶を持ってきてくれた。

 凛は床に座ると、下座にお盆を置き、両手で緑茶と和菓子を並べてくれる。


 ちゃんと相手のお土産とは違うお菓子を持ってきたようだ。俺に対する扱いはひどいが、こういう時にちゃんとしてるんだよね。この子。


 だから、親父とか。毎日のように凛を「いい子だ」って言ってるし。愛娘ができてメロメロだもんな。


 すると、凛の目が楓が持っている本に移動した。そして、いつもの冷めた目線で見ると、俺だけに見えるように舌を出した。


 楓が「凛さんもゆっくりしていって」と言う。

 って、ここお前の家じゃないんですが?


 楓がエロ本を開いて凛に見せる。


 おい。楓。

 それオジサンが同じことしたら、即逮捕されるヤツだからな?


 あー。また凛に半殺しにされる……。


 すると、凛の反応は意外なものだった。

 頬をピンクにして、左手を鼻のあたりに添えて見入っている。


 そして、ぼそっと言った。

 「……こういうのが好きなんだ」


 楓は俺と凛を交互にみる。

 そして、ニヤリとした。


 「ふぅーん」


 楓が俺の腕に寄り添って胸をおしつけてくる。そして、凛に聞こえる様に言った。

 

 「ねぇ。蓮。これ、全部。わたしが経験させたげよーか?」


 えっ。


 すると、凛も目をまん丸にしている。そして、直後に眉をつりあげた。まぁ、俺の目もきっとまん丸だが。


 「勝手にすれば?」


 凛はお盆をドンッとテーブルに押しつけると、怒って出て行ってしまった。


 「ちょっと、離れろよ」


 俺は楓の顔を腕で押しのけ、凛を追いかけて部屋を出た。


 部屋を出ると、壁にもたれて凛がたっていた。お盆をおへそのあたりを隠す様に両手でもって、下をむいて頬をぷーっとしている。そして呟く。


 「しちゃ、イヤだよ」


 凛は、俺に気づくと顔を真っ赤にして、バタンっとドアを勢いよく閉めて、自分の部屋に入ってしまった。


 いま、イヤって言ってたよな?

 それって、ヤキモチか?


 いやいや。ないない。

 そうだったら、普段からもうちょっと俺に優しいだろうし。



 部屋に戻ると楓がニヤニヤしてる。

 って、コイツは……。


 そして、いままで完全に部外者だった成瀬が、突然、真面目な顔をして言った。


 「オレ、蓮と姉貴が結婚するなら、凛ちゃんもらっていいか?」


 お前、いままで何見てたの?


 あぁ。やっぱ男子はIQ低いわ。

 凛。ごめん。お前が正しかった。

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