第六章 天仙娘娘

第六章 天仙娘娘 1

 陛下からの依頼は唐突だ。


 せいさんから骨付き肉をもらった数日後、また陛下からのお呼び出しがかかった。


「陛下に拝謁いたします。こうりんをお連れしました」


 ちょううん様と共に膝をつき、深々と頭を下げる。そして顔を上げるとそこにはいつもとは違って困惑の霊気をまとった陛下と、その傍らには目がちかちかするほどに華やかな装いの小さなおきさき様が立っていた。


 その髪にはこれでもか、というほどにたくさんのかんざしが挿してあり、真っ赤なじゅくんには鮮やかな色合いの大きな花のしゅうが施されている。首元にも指にも、金や宝石の飾りがじゃらじゃらとぶら下がる。正直おしゃれとは感じず、とにかく派手好きという印象だ。


 そしてその小さなお妃様は、とてもお若かった。童顔だからなのか、まるで子供のようにも見える。


「そちが黄鈴雨かっ!」


 甲高い声を張り上げ、そのお妃様は叫んだ。


「は、はい……」


 消え入るような声で答えると、陛下が私を気遣う様子で言った。


「鈴雨よ、急に呼び出してすまなかったな。実は今日は、ここにいるちょう貴妃の件で来てもらったのだ」


「ち、張貴妃様の、け、件で……?」


 首をかしげると、陛下は小さなお妃様の肩をぽんぽん、とたたきながら言った。


「このちっこいのが張貴妃だ。純粋で貪欲で芯が強く、なかなかかわいげのある奴なのだ。ちょっと生意気で威勢がよすぎる面もあるが、大目に見てやってほしい」


 それを聞いた張貴妃様はギィ、と気に食わなそうに陛下をにらみつけながら言った。


「陛下! そのご説明では陛下の私に対するお気持ちがまっっったくこの者に伝わらない気がいたしますわ!」


「おおすまぬすまぬ。張貴妃は余の最推し……最愛のちょうなのだ」


 すっかりやられっぱなしの陛下は、苦笑しながらそう言った。


 しかし張貴妃様とは、こんなお方だったのか。

 後宮の全てのお妃様の頂点に君臨する貴妃が、まさかこんな……威勢のいい子供みたいな人だったとは。


 張貴妃様は陛下のお言葉に一応納得したらしく、不機嫌な顔のまま今度は私を睨みつけてきた。


「黄鈴雨! 一刻も早く、わらわのためにたまにんぎょうとやらを作るのだ!」


「え……」


「そうしてもらえるか」


 陛下は苦笑いしながらそう言った。

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