第六章 天仙娘娘 2
さっそく、張貴妃様はどんな魂人形をお望みなのか、話をうかがっていく。
陛下は公務でお忙しいようで「あとは任せた」と言い残し、すぐに広間から出ていかれてしまった。その後私たちは皇宮の広間から、普段文官たちが話し合いの際などに使用している皇宮内の部屋へと話し合いの場所を移していた。
「まず、わらわの人形は
張貴妃様は胸を張り、幼子のように高い声を室内に響かせる。
「は、はい……」
「大体なぜわらわより、蘭淑妃が先にあのような立派な人形を手に入れておるのだ! おかしいではないか!」
「はい……」
「そして当然、ご利益も蘭淑妃以上にあるものでなければな! わらわの全ての願いを
「あの……」
物が言えない私に代わって、長雲様がたずねる。
「まずは張貴妃様の願いをお聞かせいただけますでしょうか。その願いによって、作る人形も変わってくるのでございます」
「わらわの、願い……」
そこで一瞬、張貴妃様は勢いを失い、言葉に詰まった。こぼれ落ちそうに大きな瞳が、わずかに潤む。
「わ、わらわの一番の願いは、安心して暮らしたいということだ……」
「え……」
さっきまでの勢いからは信じられないほど消極的な願いだ。
「も、もちろん、
「安心、ですか」
「ああ。そう思うのが当たり前であろう。入宮後間もなくして、その美貌と
小さな肩を震わせ、張貴妃様はうつむいた。恐怖や不安を示す霊気が張貴妃様の小さな体にまとわりついている。たくさんの簪も真っ赤な襦裙も、それを無理やり撥ねのけるための虚勢のように感じられる。
「長雲様、貴妃様は今、おいくつですか?」
小声で耳打ちすると、長雲様はそっと教えてくださった。
「十六になったばかりだ。まあ、外見はもっと子供……お若いようにも、お見えになるが」
「そうでしたか」
まだお若いのに名家である張家を背負って入宮され、後宮で最も高い地位である貴妃として暮らしてゆかねばならなくなったのだ。相当な重圧と日々戦っていらっしゃるのだろう。
「わかりました」
張貴妃様がどんなお気持ちで日々過ごしていらっしゃるのかは、よくわかった。
常にお傍にいて、心の
私は紙を取り出し、そこに筆で走り書きをして、張貴妃様に見せた。
【天の女帝である
「……天の女帝。強そうで
潤んだ瞳のまま、張貴妃様は朗らかに笑ってくださった。
きっと陛下は彼女のこの純粋さに、希望を
「では黄鈴雨、頼んだぞ。蘭淑妃のものに負けないくらい豪華で美しい魂人形に仕上げるのだ!」
「かしこまり、ました」
天仙娘娘を作るには相当な手間がかかりそうだ。さっそく取り掛からねば。
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