第五章 噂話と過去の事件 3

 私は食事を終えるとすぐに工房に駆け込んだ。


「うぇっ。うぷ」


 気持ちが悪い……。

 間近で嫉妬や侮蔑の霊気を浴びたものだから、具合が悪くなってきた。


りん、大丈夫?」


 頬をり寄せてくる毛毛マオマオの背中をなでて、気分を落ち着かせる。


「……大丈夫。それより、長雲様に確認したいことがあるの」


「わかった、僕があいつを呼んできてやるよ」


「えっ、毛毛が?」


 たずねると毛毛は自慢げに胸を張った。


「最近は栄安城の中をあちこちお散歩して、道も覚えたしね。あのクソ野郎を呼んでくることぐらい、僕には簡単にできちゃうよ」



 毛毛のおかげで、少し横になって休んでいるうち、すぐに長雲様がやって来た。


「お前からの呼び出しなんて、初めてだな」


「ええ」


 まだ具合が良くなったわけでもなかったが、私はよろよろ身を起こし、たずねる。


「長雲様、昔おばあちゃんが解決したという呪術事件について、教えていただけませんか?」


 すると長雲様はかすかに口角を上げて言った。


「実は俺も、最近その呪術事件について調べていた。今日はその当時の資料でも読みながらここで茶を飲もうかと思って、持ってきたのだ」


「……それがその資料ですか?」


 長雲様が机に置いた、数冊の書物を指さす。


「ああ、そうだ。お前も見るといい」


「は、はい」


「……顔色が悪いな。お前はよく吐き気を催すようだから、今日は陳皮を持ってきたのだ。これを茶と一緒に煮込んだものを飲めば、きっと体調が良くなるだろう」


 相変わらずの死んだ目のまま、長雲様が言う。ほんのりとだけ、人を思いやる霊気が発せられている。


「それは、どうも」


 長雲様が火にかけたかんから、若草のような青々しい茶の香りとかんきつの爽やかな香りがふわりと広がる。その香りに触れただけでも、段々吐き気が収まってきた。


「そういえば、毛毛は一緒に来なかったんですか」


 長雲様を呼びに行ってくれた毛毛がまだ戻ってこないのを不思議に思ってそうたずねると、長雲様は少し気分を害されたのか、やや不機嫌な霊気を放ちながら言った。


「あれは俺がいる場所にはいたくないから、しばらく散歩してくるそうだよ」

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