第五章 噂話と過去の事件
第五章 噂話と過去の事件 1
北方の山奥にある
私はあの後、まだ蘭淑妃様にはお会いできていない。幾度か青龍宮にうかがってみたが、女官から「まだお会いできる状況ではないので」と説明され、青龍宮に入ることもできない。
今は陛下からのご注文もなく、私はただただ、おばあちゃんの残した人形の修繕作業を進めている。
連天にいた頃は人となじめなくても工房で人形さえ作っていればそれで幸せだったが、今は人形を見つめていても少し気分が重い。
それが誰のせいかと言えば、もちろん悪しき呪術を行った者のせいだ。だが蘭淑妃様を笑顔にしたくて人形を作ったのに、そうはできなかったのだということが、頭から離れない。
「ちょっとあんた!」
食堂のすみっこで一人で食事をしていたら、声をかけられた。
「は、はい?」
顔を上げると、そこには見知らぬ女が一人、立っていた。がっしりとして肉付きが良く、声質も太くて霊気も力強い。
「あんたが
「…………」
確かに、私の工房を荒らした
給料を減らされることになり、麗冰の取り巻きみたいにひっついていた宮妓たちは逆に麗冰を恨むようになった。
今では麗冰は食事を取るのも一人だし、舞の仕事仲間たちからも相手にされていないようである。
「あんたのおかげで胸がスッとしたよ。私は尚服局の女官で、時々宮妓の衣装を縫う仕事もしてんだけど、麗冰がいっつも衣装に難癖をつけてきていたのさ。もう当分は生意気も言えないだろうけどね」
「そう、ですか……」
面倒なことに巻き込まれたくないし、あまり関わりたくないなあ、と強く思ったが、その思いは全く彼女に伝わらないようで、彼女は私の隣の席にどっしり腰を下ろしてしまった。
「私は
ふくよかな静華さんは、ぽおんと私のおかずの皿に骨付き肉を一つ投げ入れてくれた。
「え……。あ、ありが……とぅござ……」
お礼も言い終わらないうちに静華さんは言った。
「礼を言うのはこっちのほうさ!」
……静かそうな名前なのに、とても声が大きい。
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