第四章 兎児爺 5
私はさっそく、兎児爺の魂人形づくりを始めた。
兎児爺とは、人間に化けた月のうさぎである。人々の病を治すために月からやって来て、様々な人間の姿に化け、夜な夜な人々を治療して回った。人々はうさぎに感謝し、兎児爺と呼ぶようになった。中秋節には月が一年で一番きれいに見えるため、この月のうさぎの人形が屋台に並ぶ。
兎児爺はうさぎの顔と人の体を持ち、人間に化けるために多種多様な服を着る。今回は最も一般的な、
蘭
土をこね、人形の形を作っていく。
キラキラと輝きを放つ命の粒がつながり、兎児爺になっていく。
「今日は特にやることがないのか?」
お茶と
「人形を十分に乾燥させてから焼成するんです。あと何日かは、できることがありません」
私は猫のお面をつけずに長雲様を工房に迎え入れた。こうしてお面なしで長雲様とお話しすることにも、最近はどうにか慣れてきた。
「長雲様はまた伝奇小説をお読みに?」
すると長雲様は首を振った。
「いや、今日は資料を持ってきた。秘書省に頼んでおいたものをようやく用意してもらえたのだ」
「どんな資料です?」
「過去に起きた呪術関連の出来事が記された書物だ。これを見ると古い時代ほど呪術は当たり前のように用いられていたのがわかる」
「へえ……」
「何冊かあるから、お前も見るといい」
試しに一番古い時代のものを手に取ってみる。するとそこには金属で作られた金人、木で作られた木人、泥で作られた泥人、草で作られた草人など、様々な材質の人形たちが登場していた。そしてそれぞれ門番や案内人、武人などとして、まるで人間のように働き、人間とも会話している様子が記録されていた。
「昔はこんなことが当たり前にあったんですね……」
「そのようだな。以前の俺ならそうした記述は信じなかったが、今ならそういう事実があったのだろうと信じられる」
そして金人の記述を見て、ふと思い出す。
前に食堂で女官たちが、夜中に動き出す金人について話していたことがあった。蘭淑妃様が目にした武人というのは、その金人だったりはしないのだろうか。
「長雲様、飛龍園の金人の怪談というのはご存じですか? 前に女官たちが
「ああ、そんな話もあったな……。俺も子供の頃に聞いたことがある。夜になると金人が動き出して悪人を成敗するんだろ」
「その金人さん、本当に動くんだったらどうします?」
「それは……ないと、今までの俺なら断言するところだが」
机の上で「すぴーすぴー」と気持ちよさげに寝息を立てている毛毛を見ながら長雲様は言った。
「念のため、見に行ってみよう。お前が見ると霊気やらを感じるのかもしれないからな」
「はい」
私は外に出るため、猫のお面を
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