第四章 兎児爺

第四章 兎児爺 1

 朝晩の涼しさに夏の終わりを感じ始めていたある日のこと、また陛下からのお呼び出しがあった。


「はあ、どんなご依頼かな……」


 着替えを済ませた私は工房の椅子に座り、毛毛マオマオの背中をなで始めた。陛下は怖いお方ではないけれど、やっぱりお会いするとなれば緊張してしまう。外に出るまでに精神状態を整えなければ。


「だいじょーぶりん、だいじょーぶだいじょーぶ」


 私を落ち着かせるようにそう繰り返しながら、毛毛は気持ちよさそうに丸くなり、目をつぶった。


「すーはー、すーはー」


 深呼吸して息を整える。

 心をおだやかにー、おだやかにー。


「よしっ」


 気合を入れ、猫のお面をかぶる。

 緊張しすぎて手の小刻みな震えが止まらない。



「陛下、こう鈴雨を連れてまいりました」


 ちょううん様とタイミングを合わせ、私も膝をついて頭を床につける。


「面を上げよ」


 おそるおそる顔を上げる。陛下は今日も広間の椅子に腰かけ、陽の霊気をまばゆいばかりに放っておられる。


 ──うっ。


 やはり陛下の霊気は強い。普段霊気が特別に薄い長雲様とばかりお会いしているせいか、陛下の霊気が余計に強く感じる。


「鈴雨、先日の美女をかたどった人形は素晴らしかった。じゅくんの柄も宮廷の伝統的なもので、精密に描かれていたな。アーフーのようなたまにんぎょうを作る能力にも驚かされたが、魂人形でなくともお前の作る人形はとても芸術的で味わい深い」


「あ……がとぅ、ござぃます」


 小さな声でそう答え、再び頭を下げる。自分の作った人形を褒められた喜びに、思わず口元がゆるむ。特に、陛下が人形の襦裙の柄をお褒めくださったことがうれしい。倉庫にあったおばあちゃんの人形の衣服の柄を研究したがあったというものだ。


「それでな、またお前に人形作りの依頼をしたいのだ」

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