第三章 徳妃様の瞳 2
泥とにらめっこしながら、私は
「ううううんぬんぬんぬん」
「
「んぬぬぬだって思いつかないからんぬぬ」
私は今、皇宮に飾るための人形作りに取り掛かろうとしている。だがどんな作品を作ればよいのか、なかなかうまく思い描くことができない。なにせ今まで私は庶民のための人形ばかり作ってきたのだ。豊作を祈ったり、子の
宮廷ではどんな紋様や装飾が好まれるのだろう。わからん。
わからんぬぬ。
考えてばかりで一向に手が動かない私を見て、
「あのさあ、物置にある
「ああね」
言われてみれば、その通りだ。後宮に残されたおばあちゃんの作品はどれも、宮廷の人たちのために作られたもの。その人形を見れば、きっと私がどんな人形を作るべきかが見えてくる。
さっそく、物置にあるおばあちゃんが作った人形たちの中から数体を外に運び出してみる。夏の日差しの中に、色とりどりの人形たちが姿を現す。
「わあ、やっぱりおばあちゃんの人形は存在感があって華やかだなあ」
私は額の汗をぬぐいながら人形を眺める。それにしても栄安の夏は暑い。連天村は龍星国の中では北に位置する
そーっと
「こんな強い日差しを浴びてたら、せっかくの彩色が
私は急いで人形たちを工房に運び込む。ゆっくり観察してみると、人形の保存状態がよくないのがわかった。
「これ、色の剥げた部分を塗りなおそうかな」
毛毛に相談する。
「うん、そうしてあげなよ。僕だったらこんな姿でいるの嫌だな」
「……そうだね」
さっそく、作業を始める。元の彩色の色味と同じになるよう慎重に顔料を混ぜ合わせ、人形に絵筆を走らせる。すると次第に、人形がよみがえって生き生きしていくように感じられた。
とても楽しい。永遠に修復作業を続けていられそうなほどだ。
「こんな模様もあるのね」
おばあちゃんの人形の衣に描かれた模様を、丁寧に絵筆でなぞっていく。
これは勉強になるなあ。
「ああ、もっと細くてしなやかな筆があれば精密な模様が描けるのに」
「そういえば鈴雨、陛下から褒美に馬毛の絵筆をもらえるんじゃなかった?」
「うん、今日あたり渡せるかもしれないって、長雲様が言ってた……」
なんでも筆の名産地からわざわざ絵筆を取り寄せていただいたそうで、ようやく今日届く予定だと聞いている。
「すごく……気になる」
もしもう届いているのなら、一刻も早くその絵筆を手にしたい。
「申請すれば、大龍門を通ってあのお役人に会いに行けるんじゃないの?」
「そうだけど、できないよ」
通行許可証の申請をするには大龍門で手続きをしなければならない。当たり前だが、そのためには知らない人と会話しなければならないのだ。
「いざという時のためにも、練習で行っておいたら」
「でも……」
「慣れておいたほうがいいよ。急ぎの用事があったときに困るから」
「うん……」
しょうがない。確かに毛毛の言う通りだ。それに絵筆が届いたのか、気になるし。
私は猫のお面を
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