第一章 魂人形を作る少女 10

 翌日、私は長雲様の元に、毛毛も一緒に後宮へ連れていきたい、とお願いをしに行った。


「こ、この子、です」


「へえ、これも魂人形なのか?」


「は、はい」


 私は毛毛を抱き上げ、長雲様に近づける。毛毛は愛想よくにんまりと笑っている。


「なるほど。かまわないが……少し見させてもらう」


 長雲様は毛毛を手に取り、目を細め、色んな角度から毛毛を眺める。

 そしてくまなく全身を確認してから、言った。


「しかしずいぶんと不格好な猫だな。他のお前の人形とは作風が違うように感じる」


「なっ……。てめっ……!」


 怒りでひげを逆立て、長雲様に飛びかかろうとした毛毛を慌てて押さえつける。


「そこが逆に味わい深いって、いつも鈴雨が言ってくれてんだよっ!」


 私にだっこされながらも毛毛はジタバタしながらそう叫んだが、長雲様は空気を読まずに言った。


「まあ世の中、そういう感性の者もいる。俺は美しいものが好きだが」


「おおぅいそりゃ一体どういう……もがが」


 私は暴れる毛毛の口をしっかりと両手で押さえ、長雲様にペコペコお辞儀をしながらその場を去った。



「毛毛、気持ちはわかるけど、あの人にあまり失礼な口の利き方をすると、毛毛が危ないかもしれないよ」


 そう言って毛毛をたしなめたが、毛毛はフン、と気に食わなさそうに鼻を鳴らした。


「あんな死体みてーな面したクソ野郎に言われっぱなしでいられるかっての! 僕は自由にさしてもらうよ。たとえ毛皮を剥がれたとしてもね!」


「口が悪い。口が悪いよ毛毛……」


 それに毛毛に毛皮なんか、ないし。



 それから数日がち、あっという間に私は連天村を旅立つ日を迎えた。


 長雲様が手配しておいたのか、下の町からぎっしゃと使用人がやって来た。生まれてこのかた着たこともないような、なめらかな生地のゆったりとしたじゅくんや、つま先が上を向き、コロンとした形状のこうとうも用意されていた。陛下にお目通りするのに最低限失礼のないように、ということらしい。他にも身なりを整えるもの一式を渡された。


 長雲様は目つきが怖いし感情の霊気も発さず不気味だけれど、出発までの準備はつつがなく淡々と進めているようだった。


 そのお仕事ぶりは、やる気が感じられないのにひどく効率的だった。

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