第一章 魂人形を作る少女 9
月明かりに照らされた薄暗い工房の中、私は棚からいくつかのお気に入りの人形を取り出して、人形たちに会話をさせる。
「ねえ、ひどいよねえ。ある日突然やって来て、数日後には後宮に入れだなんて」
「あまりにもひどすぎる。人権侵害だー!」
「鈴雨がどんなに人間が苦手なのか、あのお役人様にはわかっていないのよ」
「長老様もひどすぎる! 横で見ているだけで、ちっともあのお役人様を止めようとはしなかった」
「連天は貧しいもの。水漣様のように後宮で活躍して名をあげれば、また連天は優遇されるようになって、豊かな村に戻るかもしれない。長老様はそうお考えなのよ」
「だけどどうしてそのために、鈴雨がここを出ていかなくちゃならないの?」
「そうだよ、そんなの鈴雨がかわいそう」
「けど、後宮へ行けば芸術的な人形を作る機会にも恵まれるって、あの文官は言ってたよ。これは鈴雨にとっても悪い話じゃないのかも」
「正直めっちゃ作りてー」
「でもどうする? 依頼を受けても思ったような人形を作れなかったら、首を
「えーそんなの怖すぎる!」
「大体後宮なんか、怖い人しかいないに決まってる! 鈴雨がそんなところへ行ったら、一体どんなひどい目に遭うやら。考えただけでも吐きそう! ボエエ!」
「だけど、だけど、おばあちゃんが……」
人形から手を放し、私は独り言のようにつぶやいた。
「子供の頃、おばあちゃんが、私によく言ってたわ」
今もよく覚えている。おばあちゃんは外に出るのを怖がる私を抱き寄せ、背中をポンポン
「鈴雨、たとえ傷つくことがあっても恐れずに外へ出なさい。そして人を幸せにするためにあなたの力を使いなさい。あなたがあなた自身の道を切り開こうともがき続ければ、必ず光が見えてくる」
「おばあちゃんが、そう言ってたわ」
おばあちゃん。
私に人形作りや読み書きや、全てを教えてくれたおばあちゃん。
後宮に行くのは怖いけれど、自分の願いを叶えるためにも、外に出なくては。
「鈴雨……」
心配そうに傍らで私の人形劇を見つめていた毛毛が近づいてきて、ちょこんと私の手の上に、その小さな手を重ねた。
「僕も一緒に後宮に行くよ。鈴雨が危ない目に遭わないように、ずっと見守っててあげる。いつでも話し相手になってあげる。そしたら鈴雨、あんま怖くないでしょ?」
「毛毛」
「明日そのお役人さんにも相談してみようよ。魂人形の猫を一匹連れていってもいいかって。きっと許してくれるさ」
「うん、そうだね」
私はいつの間にか頬を伝っていた涙をぬぐい、毛毛を抱きしめた。
「ありがとう、毛毛」
へへへ、と毛毛は照れたように笑った。
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