おわりに
企画を立ち上げた時、私自身は『書く・読む』どちらの意識も低下していたと言えます。それでも、惰性で書き続け……読み続け、企画までも立ち上げてしまったことに大いに後悔し苦悩しました。
語弊を恐れずに言えば、本というものは無理して読むものではないと思います。無理に読まされているのだとしたら、それは著作物と読者、どちらにとっても不幸なことだろう、と。
決してそのような無礼な態度で望んではいけない、そう思いながら読み進めたのは先々月の末のこと。
前述の通り、掌編という長さの思わぬ難しさに苦戦し感想も満足に添えられず、学生時代のあの読まされていた感覚を思い出しそうになりました。
そんな時、私を励ましてくれたのは、意外にも以前の自分が書いた感想でした。
受賞式会場に書き残した数々の感想を読み返すと、まるで自分のものではないような文字が綴られていました。なんと真っ直ぐな感想だろう、と。誇張ではなく、自分で書いたのが信じられないほど真剣に作品に向き合っていることが伝わってきました。
真剣に向き合い、真剣に読み解き、そして物語に憑依していたことがありありと分かる文がそこにはあったのです。
そこには、いくら書いても飽き足りない頃の自分がいました。当時は、それこそPV0のまま50万文字を超える作品を書いていたのです。書くことでしか満たされない想いをぶつけていた自分がいたのです。
その後幸いにして、少ないながらも読者を得た私は、いわゆるビギナーズラックの時期を終えたのでしょう。
少しずつでも読んでもらえるようになると、今度はもっともっとと欲が出る。作為とあざとさが作品に滲み出てきてしまう。
私の作品は技術などとは無縁で、とにかく感情のままに書き上げるという事を続けてきました。
しかし、そんな書き方をしていればやがて自分というものが底をついてしまいます。
そんな時、手を差しのべてくれるのが、他の作者様の作品たちです。時には、自分に無いものをまざまざと見せつけられて、悶絶することもあります。技術の差に愕然として却って書けなくなることもあります。
しかし、重いだけが良作ではない。
緻密なだけが傑作の条件ではない。
読み手が百人いれば百通りの読み方と嗜好があるのです。
誰かの胸に刺さるのが作品として世に出る必須条件だとしたら、想いのこもった作品はそれだけで世に出ていいものだと思います。寧ろ積極的に出していくべきだと思います。
そして、数えきれない作品の中でであった物語に心が動いたら、ぜひ感想を添えてほしいと思います。
あなたの作品は私に届きましたよ──と。
今回はこのような形で開催させていただいたわけですが、企画も回を重ねていくと、どうしても何度も選びたくなる作者様が出てくることになります。中には☆200超えてるような作品までも応募していただけています。
良い作品、好きな作品を選ぶだけならそれでいいのかも知れないが、やはり私は多くのいろんな人の作品を読んでもらいたい。そして、その選ぶ対象も広げていきたいのです。
前回受賞者の方、星の多い方、それらの作品は間違いなく良作であることは前提に、苦渋の決断ではありましたが今回敢えて賞対象からはご遠慮願うことにいたしました。
この辺りの葛藤は、長く続けばどうしても出てくる現象だろうと思います。もし、これを読んで参加に躊躇している作者の方いらっしゃいましたら、遠慮せずに、怖がらずに参加していただきたいと思います。少なくとも、作品には目を通しますし、何か感じるところもあれば感想も残します。感想が無かったからと言ってつまらない作品だったというわけでもありませんし、企画参加者は意外なほど他参加者の作品を読んでくださいます。
この環はとてもありがたいことです。私の作品が日の目を見たのもこういった活動のおかげでもありますのでね。
だんだんむずかしくなってくる賞企画の運営だと思いますが、参加希望者がいる限り続けていきたいと思っております。どうか、温かい目でご支援くださりますよう宜しくお願いいたします。そして、ひとつでも多く作品を手にとってもらえることを、いち作者として望みたいと思っています。
2024年11月吉日 天川
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