【受賞式・閉幕】選考を終えまして

 ○ おわりに


 駆け抜けた、と表現するにふさわしい──幾度となく、作品の熱量に押し負けそうになりながらも最後まで読み続けることが出来たことを、まず感謝申し上げます。


 前段で申しました通り、今回はいつもの感動作品とは違った、物語全体から伝わる熱量のようなものを持った作品が多かったように感じます。

 特に、エンタメ調に振った作品も幾つか見受けられ……とくにアクションシーンなどが入る作品となると、私などはまだまだ読み解き力が足りないと感じることもしばしばでした。自分の苦手と思っていたジャンルに触れる機会も多かったのですが、難しいながらも手応えもいただけたようにも感じております。


 当然ながら、選考結果を受けて、それはおかしい、その作品よりはこっちの方が面白いだろう────そういった感想が出ることと思います。

 その想いを感じたなら、ぜひ作者様にその感想を伝えてください。

 あなたの言葉が、『あなたの作品が好きです』というその言葉が、作者の創作を後押しする何よりの支えとなるのですから。




『芸術には母が必要、母でなければ恋人、或いは見守ってくれる人が──』




 これは、とある作品を読んだ際に自然と私の内側から浮かび上がってきた言葉です。あるいは、どこかで似たような言葉を耳にしていてそれを思い出しただけなのかもしれません。


 この言葉を掬い上げて、そしてそれを別の誰かに伝えてくださった作者様がいらっしゃいます。(隠してもしょうがないので、涙賞の『朝吹さま』です✨️)

 恥ずかしながら、この言葉を目にした時……いい言葉だな、と思ってしまったんです。自分で言った言葉なのに、忘れていたんですね💦


 その時、自然と湧き上がった言葉が文章となって形作られることが、私はしばしばあります。しかし、その言葉は誰かの言葉を貰って自分の中で生成された、いわば『産ませていただいた言葉』でもあるのです。私の感想は、そうしてできていったものばかりなのです。


 読むことが、私の創作を支えていると言っても過言ではありません。読まなければ、新たな創作は決して生まれないでしょう。


 今後、私自身の「読む」という事への取り組み方を心新たにまた考えようと思っております。

 さらに今回は、作者様の心の内といいますか……作品に現れない部分にも触れる機会が多かったような気がいたします。

 印象的だったのは、長編のアイデアとして温めていたけれど自身の手に負えず────という言葉。

 こういうケースというのは多分、少なからずあるのではないかなと思います。

 かく云う私も、温めるだけ温めて一文字も書けていないものもあったりしますので。

 でも、やっぱりもったいない……。作品に日の目を見せて欲しい。世界に羽ばたかせて欲しい。

 プロット仕立てでもいいから書き出して公開しちゃうのも、いいかも……いいのかな? どうだろう💦

 確かに、読んでみて未完成と云うかあらすじの域を出ていないというものもありますが、粗削りには粗削りの魅力、勢いみたいなものが感じられます。

 どんな人が見ているかわからないこのカクヨムというフィールド。

 誰かの目に触れたなら、そこから新たな作品が生まれるということもあるのかもしれません。(著作権とか色々ありますので、あんまりこの辺気軽に考えちゃいけないのでしょうけど、ほんとうは💦)


 一方で、企画に参加された作品全体の水準が上がっているのは間違いなく感じております。

 いずれは、私では手に負えないほどの傑作が現れることも考えられます。そのときには、私の役目が終わった、自分の力及ぶのはここまでだと云うことで、静かにこの場から立ち去ろうと思っております。


 しかしながら……語弊を恐れずに言えば、ユーザー側の『書く』熱量に対し『読む』熱量……あるいは、読む力のようなものが全体に低下しているのではないかということの懸念を感じたりもします。

 炎上、コンプラ……配慮することは多くあれど、もっと感じた感想を作者に伝えてもいいんじゃないかと思うことも多くありました。


 既に人気のある作者の作品は、確かに安心感があります。一方で、あまり触れられていない作者様の作品に触れるのは、緊張感とある種の恐怖感も感じます。


 しかし、開示されているならそれは読まれるために世に出たものであるのは間違いない筈なのです。


 コメントを安売りしないのがカクヨムの空気感、なのかもしれませんが……良作であるはずの作品がコメントゼロ、ハートも☆も一桁────「勿体ない」と感じることもしばしばでした。


 カクヨム界隈では異世界ファンタジーとラブコメの二大巨頭が現在の主流だと思います。しかし、そんな作品……とりわけ☆4桁など獲得している作品を試しに拝見してみたところ………、

 「これ、どこがいいのかわからない」「文にクセが強すぎて読めない」

 といった作品が意外なほど多いのが気になります。

 そして、そういった作品まで味わい尽くすような読み方が、私にはまだできていないという課題も見えてきました。


 或いは、私とは違う次元の読み解きスキルをお持ちの読者が現在の「読み」を支えているのかもしれません。そうであるなら、それこそ私の退場が早まるということでもあります。そこは、否定するべきでは在りません。言葉は生き物であり、私のような旧い言語しか操れない者はいずれ淘汰されていくのが定めなのかもしれません。


 一方で、美しき筆致と心震わす良作品を多く抱えた他の賞企画に寄せられた作品までもが、星の数1桁から2桁で喘いでいるのを見ると、本当にこのままでいいのだろうか? と思うところもあります。


 一般ウケを狙って角を丸めることは必ずしもいいことではありませんが、間口を広く、誰でも読めるというのも重要な要素であります。

 一方で、純文学と呼ばれる……まだ私もきちんと向き合いきれていない、小説の良心とも言える領域はきちんと守られているのが、頼もしくもあり私自身を情けなく


 ────今、私の立っている場所ジャンルは、純文学と異世界エンタメの狭間……ニッチで中途半端な立ち位置です。商業主義的観点で言えば間違いなく海に沈む運命さだめの小島でありましょう。

 孤高のジャンルか人気の的か──どちらもこなせるのなら、それが最良でしょう。私には、無理かもしれません。

 あるいは、今の残されたこの猶予の時間を幸せに生きることが、私にできる選択肢なのかもしれません。


 創作という楽園を追われた私が、次にたどり着ける場所が果たして残されているのか、どうなのか。いまは、ただこの楽園カクヨムにしがみつくばかりであります。




 最後に、私が今回の開催を決意するきっかけになった作品を………。



 ◯ 穢月祓 ―ミナツキハラエ―  /  祐里(猫部) さま

 https://kakuyomu.jp/works/16818093079571058307



 一月ほど前に、私が初めて長編作品を書き上げ……味わったことのない喪失感を持て余していた頃でした。

 全く、読むことも書くことも出来なくなり、右往左往していたところに差し出された、一作。

 失礼を承知で言えば、少し荒々しい完成度。しかし、その作品から強烈に発散される『書かずにはいられなかった』という作者様の衝動と情動が、萎えていた私を奮い立たせていくのが分かりました。


 作品とは、創作とはこういうものなのだと。誰がなんと云おうと書かずにはいられなかったんだ、という強い意志。


 体験と体感が、それぞれの個人的なものであるのは当然なのに、同じ情景同じ感情が内側から吹き上がるように湧いてくる様は、まさに創作が個人の壁を超えて活力となる事を証明してくれたようでした。


 この作品を読んですぐに私は感想文を書き、作者様に送りつけw(その節は本当にご迷惑をおかけいたしました💦) 私も、また書き出そう、読み始めようと思い至ったのでありました。


 書く方は相変わらず拙いものしか出来ませんが、幸いにして読む方に関しては少しずつでも喜んでいただいており、とてもありがたいことです。

 もちろん、「お前の解釈は間違っている!」と云う意見は遠慮なく申し出てください。反応がなければ私の感想はただのエゴで終わってしまいますし、この天川賞もやがて店じまいすることになってしまいます。


 読書と云うものは、本と文章に呼び寄せられ、手に取り、興味を惹かれやがて正面から向き合い……最終的に作品と読者との真剣勝負になったときが一番面白いと思っております。

 カクヨムでは過去二度、その真剣勝負を味わわせてくれた作品がありました。(ドリンクコーナーに展示してありますので、御覧ください)


 また、このような「勝負」ができる作品に出逢えることを願って、【第2回 短編で魅せる・読ませる】の閉幕の言葉とさせていただきたいと思います。


 長い間、ご覧いただきありがとうございました✨️

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