バラチの槍
魂というものが実在するのか、それは現代でも議論を呼ぶ問題のようだ。魂など存在しないと考える即物的な思想が正解だと私は考えるが、旧習慣に敬意を払い、魂が存在すると主張する人も少なくはない。
私は、民俗学的な調査をもとに、墓地に忌まわしい伝承がまとわりつくことを研究していた。
岐阜県に存在する地獄寺に古代から奇妙な怪物が眠っている。地獄寺は木造建築の古代寺院で、古代寺院に勤めている人は十人くらいはいるだろうか。彼らが古代寺院を維持している。彼らは、あくまでも古代寺院の雑用を片付ける仕事をする者たちであり、古代寺院の教義には関わらない。古代寺院の使用人たちは、その古代寺院に怪物が眠っていることはよく理解しており、一般報道されないその怪物の観察日記を付け続けている。
地獄寺の怪物は、広大な精神世界を持ち、人類の心を支配している。その怪物は先史時代からこの地に居て、人々とわずかに交流した記録が残されている。人語を解すと伝わっている。
地獄寺の怪物を訪れた私を、古代寺院の使用人たちが迎えてくれた。地獄寺は、有名な宗教とは関係を持たずに存在する。この国に仏教が伝わるより古く、キリスト教が伝わるより古くから存在している。
「墓地の死体の精神がこの古代寺院の怪物とつながっている。あの怪物は、ずっと怖い夢を作りつづけている」
私は説明する。古代寺院の使用人は、雑用しかしないのに、その手の話には慣れたもので、死体の精神とは何かを説明することを促す。それは非科学的なんじゃないですかと。
「死体が精神を継続する理由は私にはわからない。物質の離散とともに、精神も離散するはずだ。論理的に考えるならね。しかし、世界中の死体の精神を継続させている原因は、人の身体の内部にあるのでもなく、精神の内部にあるのでもない。外部からの干渉が世界中の人類の死体の精神を継続させている」
それは、有名な宗教では、ありがたいものだとされるものだ。しかし、墓地の忌まわしい伝承を調査する私には、とてもそんなものだとは思えない。
「誰が地獄を作ったか考えたことがないかい。あの怪物が作ったのさ」
私はいった。
何のためにでしょう。古代寺院の使用人が質問する。
「恐怖が好きな怪物なんだよ。人類に地獄という恐怖を与えたんだ」
どうすれば、地獄から逃れることができるのでしょう。
「地獄から物質世界に戻って、この地獄寺を探し出し、あの眠る怪物を倒せばいいんだ」
私は答えた。
古代から現代まで続く厖大な数の人類の死者。その者たちは、死後の精神世界を継続させられ、地獄寺の怪物に怖い夢を見させられ続ける。
地獄から物質世界に戻るのは難しそうですね。と古代寺院の使用人がいう。
「地獄から報告が届くことはある。私は、墓地を調査していて、地獄からの報告を受け取った。この古代寺院の怪物が地獄を作ったという報告を受け取った」
どうせ、この古代寺院の怪物は、忌まわしい外なる神の一柱なのだろう。
あなたの名前を聞いてよろしいでしょうか。そのような事情があるなら、あなたの名前を古代寺院の記録に記しておきたい。と古代寺院の使用人がいう。
「バラチ」
私は名のった。
私は三メートルの長さの槍を突いて、眠る怪物を突いた。重いハンマーも持ってきていた。ハンマーで怪物を叩いた。
この怪物を倒せば、世界中から地獄が消滅するのだ。私は勝たなければならない。
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