寝てもサメても

秋乃晃

遭遇

 目が合った瞬間にびびっときた。

 ボクは今日、この子を連れて帰るためにIKEAに来たのだと。


「パパ!」


 日曜日。朝の特撮番組を見終わってぽけーっとしていたボクは、首根っこを掴まれて助手席に座らされた。家具なんて見ていてもつまらない。だから、目的もなくふらふらと売り場を歩き回っていて、――運命的な出会いを果たした。


 いちばんかわいいサメのぬいぐるみを抱きかかえてパパのところに駆け寄る。けれども、パパは無情にも「戻してきなさい!」と言い放った。周りの他のお客さんがびっくりして、こちらを見る。


「で、でも、」

「わかったわかった。やめよう。な?」


 そう言ってパパはボクの持っていたぬいぐるみを取り上げると「すいません……」と店員さんに渡した。


 それからパパはボクを肩車してレストランまで連れて行く。一個百円のホットドッグが三個、ボクの前に並べられた。ホットドッグを一度に三個も食べたのは初めてだ。


 サメの記憶はホットドッグに上書きされて、車に乗る頃にはサメのことをすっかり忘れてしまっていた。

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