終わりが婚約破棄ならば……始まりも婚約破棄なのかもしれない

藤芽りあ

終わりが婚約破棄ならば始まりも婚約破棄かもしれない【イザベラSIDE】

第1話 突然の婚約破棄



 ――……君との婚約を破棄させてもらいたい。



 最初に感じたのは内臓が潰れそうな圧迫感。


(苦しい……?! 殺される?!)


 思わず自分の身体に手を当て見ると、ふわふわのドレスを着ていた。

 苦しさを感じる所に手を当てれば、硬さのある布の感触。


(もしかしてこれって、コルセット?? 苦しいとは聞いてたけど……噂以上に苦しい!!)


 次に感じたのは頭の重さ。

 どうやら髪に多くの装飾品が付いているみたいだった。


(頭が重い!! 一体何が付いてるの??)


 私は先程まで駅で電車を待っていたはずだった。


(え? どうしてここにいるの??)


 見渡すとここはどこかのバルコニーのようだった。

 すぐ横では賑やかな声と明るいクラシックのような音楽が流れている。

 どこかのパーティー会場だろうか?


 状況がわからない中、私の頭の中に流れるような絵が見えた。


(な……にこれ……)


 そしてコルセット以上の胸の苦しみが襲ってきた。



 ――……生きていけない。



 私の中に絶望が襲い掛かっていた。

 その想いはとても深くて、重い。

 正気を保つのも難しいほどだ。


(息が出来ない!!)


「………イザベラ、君は……私がこんなことを言ってもなお、顔色一つ変えないのだな」


 私は声の方を見た。


「リード殿下……」


 先程の映像がイザベラという人物の記憶だと気づいた。

 そしてイザベラは今、最愛の婚約者であるリード殿下に婚約破棄を告げられたのだ。


 私の中のイザベラが、『リード殿下の妃として相応しいよう、気高くあれ!! 弱みを見せるな!!』と叫んでいた。

 本当は泣きだしたいのに、心から血を流しながらも懸命に叫んでいる。

 私は状況がよくわからなかったが、イザベラの望みを叶えることにした。



 私は殿下に美しく礼をした。そして、スッと背筋を伸ばして告げた。


「承りました……」


 するとリード殿下が大きく目を開けて、つらそうな顔で唇を噛んだ。


「……そうか……それが君の………答えなのか………」

「はい。リード殿下、息災であられますことを」


 私は頭を下げた。


「くっ!!」


 リード殿下はその場を去って行った。



 私はふらふらとイザベラの記憶を辿って、庭園に向かって歩き出した。

 そして、いつの間にか人の全くいないバラ園にいた。


 私の背より高いバラの生垣に囲まれ、周囲から分断されたような空間。私はそこにあるベンチに座った。

 その途端、私は堰を切ったように泣きだした。


「これって切なすぎない??」


 私はイザベラの記憶を知って、思わず泣きだしてしまった。

 イザベラは大好きなリード殿下のために、『王妃』として相応しくあろうとして、心を殺して懸命に努力していた。

 本来のイザベラは感情が豊かで、のんびり屋だ。

 それなのに今の王妃様のようになんでも出来きて、凛々しいそんな王妃になろうとしたのだ。

 そして無理をして――心が壊れてしまった。


(イザベラってば……無理して自分と全く違うタイプの人を真似ることはなかったのよ!! あ~~~切ない!! イザベラ頑張り過ぎだよ~~~。こんなのってない~~)


 私は大好きな人のために懸命に努力して心を病んで消えてしまったイザベラを想って泣いた。

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