第25話 災禍の覚醒者たち①
〈new〉国内ギルドランキング(新四大ギルド)
国内1位「
ギルドマスター
『戦女神』九条
国内 2位「
ギルドマスター
『氷神』雷神 宗介 32歳 【四天星】
サブマスター
『一撃粉砕の女王』天翔 詩音 【四天星】
国内 3位 「
ギルドマスター
『
国内 4位「
ギルドマスター
『暴虐雷帝』藤堂 夢幻 【四天星】
サブマスター
『
―― 塔攻略
溶岩ステージ、猛るイフリートを前に
「【絶対零度】氷竜蒼華」
雷神の極大魔法、氷の竜がイフリートに向かって突進する。しかし、イフリートから漏れ出す火炎で近づくごとに縮小していく。
「ヴォォォオオオッ」
イフリートは左手で竜を受け止め、右手で叩き壊した。
崩れた氷の塊は跡形もなく蒸発した。青華の本来の効果である敵を中心にして、一面に広がるはずの氷の世界が一向に現れる気配がない。
『氷神』雷神 宗介は、イフリートの鉄壁の防御を前にして、自分の無力に絶望していた。雷神はこれまで、その圧倒的な火力で数々の敵を捩じ伏せてきた。もしくは、敵が凍りつきさえすれば、天翔が即座に破壊する。
今回のように自分達の力を超える敵に出会ったことはなかった。
「……なんてモンスターなんだ。どんな攻撃も全く通る気がしない。このまま長引けば……俺たちは戦力を失うだけだ。」
雷神の氷魔法はイフリートにとって弱点属性と言っても過言ではない。しかし、灼熱の溶岩フィールドが、どこまでもイフリートを味方する。
灼熱のフィールドでは雷神の冷気が生成されにくい。氷魔法の弱体に加えて、イフリートの炎は純粋に威力を増している。雷神のマイナスとイフリートのプラスが、氷の属性優位を打ち消していた。
『粉砕女王』天翔 詩音もまた、いつになく弱気だった。雷神のスキル【絶対零度】は氷系の最大魔法。雷神が再覚醒してからというもの、そこに依存する場面が多すぎた。
加えて、天翔の物理攻撃すら通用しない。
2階から今の10階まで、溶岩ステージが続き、それでも何とか
力技で進んで来た。しかし、それはここで限界を迎えた。何よりイフリートの攻撃無効かのような鉄壁の守りが天翔の心を折る。
「悔しいけど撤退するしかないね。まあ、うちのギルドが一番先行しているとは思うけど。私の火力で無理なら日本でこの塔を攻略出来るギルドはないわ。」
「雷神さん。俺を先頭に立たせて下さい。必ず結果を出します。」
発言者は新参の
「NOだ。お前は下層で何度も死にそうになっただろ。あまりに役不足だ。所詮は学生だよ。弱すぎる。」
「同感よ。前評判と中身が違いすぎる。彼をパーティーから外して強アタッカーを増やすべきだわ。」
「くっ。」
イフリートが冒険者たちを馬鹿にするように笑っている。
「アメリカが20階層を攻略したって? ありえないだろ。日本の冒険者が世界一のはずだぞ。」
「世界のパワーバランスが変わって来てるって事でしょうね。大国とでは人口の分母が違うのだから当たり前だと思うけど。」
イフリートが腕を振るとお遊びの火炎が冒険者達を襲う。盾役の二人が悲鳴を上げた。
「マスター。もう無理です。シールドが持ちません。」
雷神は緊迫した表情から一転し余裕をみせる。判断はもう決まっていたのだ。
「タンクは急いで後退しろっ。」
「「はいっ。」」
「お前の中心が氷無効なら距離を取れば良い。障害物くらいには機能してくれよ。【絶対零度】case3 出力最大 大山氷壁っ!
撤退するぞっ。各自入り口の魔法陣に走れっ。」
『 攻略情報:パーティー別ランキング
第一位
魔法使いの塔【 9階層 】
パーティーリーダー:『氷神』雷神宗介
所属ギルド:
―― 塔攻略
塔型ダンジョン 正面入り口
仮設休憩所に帰還したメンバー達が押し寄せた。メンバーの達の顔はどれも疲弊している。
「助かった。やっと身体が軽い。」
「あのゴーレム普通じゃねー。本当に死ぬかと思ったぞ。」
「……。」
最後に入ってきたギルドマスターに、ギルドの参謀が労いの言葉をかける。
「マスター。お疲れ様です。やりましたね。」
『創成王』月山 拓海は椅子に腰を降ろし、グッタリと机に伏した。
「というと。……ランキングは何位だ。」
「おめでとうございます。パーティー攻略ランキングも、個人ランキングもマスターが堂々の一位です。うちが10階で一位。ディスロが9階で二位。ケイオンにいたっては、ランキングが4階でストップしています。あのクズ共は5階の攻略に失敗しているのでしょう。」
『 攻略情報:パーティー別ランキング
第一位
賢者の塔 【 10階層 】
パーティーリーダー:『
所属ギルド:
第二位
魔法使いの塔 【 9階層 】
パーティーリーダー:『氷神』雷神宗介
所属ギルド:
第三位
召喚師の塔 【 4階層 】
パーティーリーダー:『暴虐雷帝』藤堂 夢幻
所属ギルド:
「……なるほど。その様子だと、これから日本は大きく変わるな。」
「ええ。歴史が変わりましたね。ランキングは各冒険者協会の支部で一番目立つ場所に掲示されています。国内でゴルクラの評価は、きっと鰻登りですよ。」
ランキングだけを見て喜ぶ参謀に、月山は申し訳なさそうに言った。
「そういう意味じゃねーんだ。俺の間違った判断で、一軍メンバーが三人も死んだ。今の順位は運が良いだけだ。それでも10階でギリギリだった。報酬には手をつけていないが、目に見えるような強化をされない限りこれ以上登れるとは思えねー。」
月山の言葉で参謀は全てを悟った。
「……そんな。それじゃあ。」
「ああ。このままいけば、三ヶ月後に日本は滅びる。また『戦女神』の可能性にかかっているんだろうな。ディバインとケイオンで個人ランキングに入った者は何人いる?」
「ディバインが十人でケイオンが……六人です。」
「やはりディバインは引き際がうまいな。こうなっては人員の損失無しがある意味一番の成功だ。ケイオンは四人も死んだのか。きっと序盤だな。連鎖的に人数が少なくなればあの塔を登れるわけがねー。」
「どうするのですか?」
「まずは報酬を使って新しく手に入れた力を確認する。その結果次第できっと冒険者協会に報告と相談に行く事になるだろう。国内で『戦女神』の所しか頼れない以上、俺達は今『戦女神』が回っている未知のダンジョンの攻略に替わるしかない。」
「……いざとなったら会長がいるんじゃ。」
「そうだな。感傷的になりすぎて、頭が回らなかったよ。それにディバインが戦略的撤退ならまた話も変わってくる。あの『氷神』が俺より低い位置にいるわけもないだろう。とにかく、今日は二軍の攻略も無しだ。全員この仮設からも撤退だ。ギルドに戻るぞ。」
『創成王』月山 拓海は知っている。
彼の能力は日本の未来を背負っていた。武器や防具などを製作する日本一のクリエイターだからこそ、冒険者協会側から本当の事を聞かされていたのだ。
しかし、この数年間で継続的に起こるモンスターブレイク。またはその影響で亡くなった人の数や行方不明者の数は、最初の情報を圧倒的に上回る。
累計死者数約1000万人。
これは日本だけの数字だ。初動が遅れてしまった世界はもっと悲惨な数字になる。
世界滅亡は、既にカウントダウンを迎えていた。
「後悔したって遅いな。俺は協会の言う通りにするんだった。塔の経験や間近に迫る危機を感じて、やっと自分の重要性を意識したよ。ギルドの利益の為だけに行動するのはもう終わりだ。俺は俺にしか出来ない役割を本格的にこなす必要がある。」
三大ギルドの塔攻略失敗のニュースは、数実後、日本全土に広まる。
しかし、それは悲報ではなかった。
その時こそ
国民は日本に出現した新たな英雄たちに再び湧き上がることになる。
人々の遠い記憶に残る
その『奇跡』の名を
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