第17話 殺意の冒険者たち

辺りのゴールドスカラベを倒し顔を上げると、ダンジョンの奥から別の虫が大群でやってきた。


「【鑑定】」


 『バーニングアント

 スキル

【ファイアーマージング】

 身体を火の魔力と同化する。同化中は火属性魔法が増大し物理攻撃無効、火魔法無効。 』


「単体には剣での攻撃。範囲魔法では田中から学習した火魔法が一番強い。俺の天敵じゃないか。けど【 光の矢 ライトアロー】と【 聖光の ホーリーアロー】の直線ダメージは効くか。……その前に、まずは試してみるか。この剣の力を。」



 俺はバーニングアントの大群に向かって走る。経験値の高いダンジョンなら、無理をしても最悪レベルアップでなんとかなる。モンスター達は一斉に炎の蟻と化した。


 無詠唱での剣スキル発動。状況に合わせて自然に出来るようになる事が課題だ。最初のバーニングアントを切り伏せる。


 『バーニングアントを討伐しました。経験値を獲得します。』


「物理攻撃無効じゃないのかよ。魔力を使った攻撃は物理攻撃に含まれないんだな。まあ。でも数が多すぎる。減らすか。【 聖光の ホーリーアロー】」


直線状に進む光の矢がバーニングアントの大群に突っ込み消失した。


「魔法攻撃は威力が足りないのか。つくづく凄い武器だ。悪滅龍剣デビルスレイヤー・雷 ライ。手に入れてなかったら詰んでたな。仕方ない。レベルが上がるまでは持久戦だ。」



 俺はバーニングアントを一匹ずつ仕留めていった。




 ―― 入り口付近

 


「相田。アイツFランクじゃねーのかよ。なんなんだアレ? いくらEランク ・・・・ダンジョンとはいえ、無双しすぎなんじゃねーか?」

「瑛太くん。間違いないはずっすよ。銀狼傭兵団でも運び屋やってたんでしょ?」

「そうだな。だが運び屋の解雇から、僅か一日で銀狼傭兵団は崩壊した。ダンジョン攻略の失敗とメンバー大半の死。何か関係があると踏んで後をつけた。」

「俺の【スモーク】で職員の目を盗み、入ってみたら他の冒険者はいない。Eランク ・・・・ダンジョンを一人で攻略が許されたとなると、最低基準のCランクは濃厚でしょうね。」

「これで確定したよ。あいつは力を持っている。銀狼傭兵団はアイツの力を失い壊滅した。そのせいで、俺はギルドの立ち上げに失敗した。ツテのない俺に銀狼傭兵団との提携は絶対だった。おかげで、三大ギルドに入るしかなくなった。」

「俺にはそっちの方が魅力的ですがね。で、どうするんですかい?」

「これはチャンスだ。まとまった金さえあれば、初期段階での勧誘が出来る。また夢が見られるんだ。アイツが弱った所で、殺して奪うぞ。ここの資源を全てな。」



―― 達也


「【 聖光の ホーリーアロー】」



『バーニングアントを討伐しました。経験値を獲得します。レベルアップしました。バーニングアントを討伐しました。経験値を獲得します。バーニングアントを討伐しました。経験値を獲得します。バーニングアントを討伐しました。経験値を獲得します。バーニングアントを討伐しました。経験値を獲得します。バーニングアントを討伐しました。経験値を獲得します。レベルアップしました。』


「はぁはぁはぁ。経験値の入り方が異常だ。ここだけで前のダンジョンよりも多くレベルアップしている。【 聖光の ホーリーアロー】で瞬殺が出来るようになった。魔法攻撃が武器の強さに追いついたと考えると、ここに来たのは正解だったな。俺は確実にAランクに近づいている。」


 蟻の群れの奥に巨人のようなものが見える。しかし、これだけ倒してもバーニングアントの数はまだ残っている。


「あれがボスか? せっかくだし、効かないと思うけど、ものは試しだ。【 溜聖チャージ 】……………………【 セイクリッド フレイム】」


 およそ1分間チャージした強大な【 セイクリッド フレイム】が辺り一面に燃え広がる。


『バーニングアントを討伐しました。経験値を獲得します。バーニングアントを討伐しました。…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………バーニングアントを討伐しました。経験値を獲得します。レベルアップしました。』


 全ての蟻が素材となり、インベントリに収納された。


「…………なるほど。【 セイクリッド フレイム】は完全な火属性ではないのか。範囲魔法はこれ一択だな。」


 俺は巨人の元に向かった。近くで見るとゴーレムの形をしていた。


「【鑑定】」

 

『サンドゴーレム

 スキル

 【砂防壁】 』


「また、防御系のモンスターか。大きさからすると、今までとは一味違うかな。」


 ゴーレムに向かって一直線に走っていく。胸部に剥き出しになった魔石があった。

 

 「 【 瞬足クイック 突進ダッシュ 】【 溜聖チャージ 】………………【刺突 ピアス】」


 鋭い閃光が宿った強烈な一撃。速度 × 溜め × 突き。今までにない手応えで、ゴーレムを一撃で葬り去った。


「ひやー。一撃の攻撃力は断トツでこれが一番だな。でも、コイツはボスじゃない。ゴールの魔法陣はあそこにあるのに。」


ふと、下を見ると砂の下に魔晶石が埋まっていた。


「【インベントリ】」


 ダンジョンで取れたこれまでのアイテムを確認する。このダンジョンに入ってからのアイテムは、どれもEランクとは比べ物にならないくらい上質だった。モンスターの数も普通よりも多い。だが、ここは五十嵐さんが勧めるダンジョン。それだけとは思えない。


「ひょっとして、このフィールドの資源は、砂の下に隠れているのか。……スキルはイメージだ。イメージをこの砂のフィールド全てに拡張して【インベントリ】自動収集。」


 インベントリを確認すると新たに魔石や魔晶石、他にもダンジョンの資源がたくさん収納されている。


「やった。五十嵐さんありがとうございます。」


 その時だった。


 一瞬の気の緩み。完全なる油断。


 下から現れた巨大な何かが、突然、俺を襲ってきた。


「【スモーク】派生 追尾煙幕 変色青 」

「【アイスジャベリン】派生 氷地獄 」


 足元が氷で覆われる。体から煙が発生した。身動きが取れない。

 

「【鑑定】」

『サンドウォーム[悪魔 デビル

 スキル

 【大地振動】

 【瘴気】 』


 サンドウォームが、数多の牙を回転させながら、俺を呑み込もうと突進してきた。満たされた瘴気が体の自由を奪う。


 最悪だ。

 

 

 死ぬ。


 モンスターだけではなく、刺客もいやがった。


 

 完全にこのダンジョンを舐めていた。

 


 ……前の俺だったならな。


 

 サンドウォームは目の前で牙を剥き出しにしている。


「【 守護 ディフェンス】相田敦彦。輝澄瑛太。お前等泳がされていたんだよ。だが、とうとうやっちまったな。【 セイクリッド フレイム】【 瞬足クイック 歩行ウォーク 】」



 サンドウォーム[悪魔デビル]の牙をスキルで防ぎ、火の魔法で氷を抜け出し、スキルで相田と輝澄の前まで進んだ。神聖力を全開にした蹴りで、二人を左右に蹴り飛ばす。


 ダッシュとは違い【 瞬足クイック 歩行ウォーク 】の効果はまだきれていない。向き直るとサンドウォームに向かって走る。


「 【 溜聖チャージ 】……【 ヘビー 斬撃スラッシュ 】」


 だが瘴気で全身の力が抜けている。サンドウォームの硬い皮膚は少し傷を負う程度だった。


『【環境適応】が瘴気に適応しました。【瘴気耐性】を獲得しました 』


「【アイスジャベリン】」


 背中から氷の槍が向かってくる。俺はすぐさま剣で叩き落とした。


「氷の槍が効かないだと。クソッ……仕方ない全ての魔力で……【アイスジャベリン】最終奥義 氷監獄 相田、起きろっ!」


「……ぐっ。【スモーク】最終奥義 高温一極集中 」


 体の周りに徐々に氷が張り巡らされる。高温の煙が立ち上がり、それを溶かしていく。


 キュルキュルキュル


「お前ら馬鹿だな。相性悪すぎだろっ。」


『【環境適応】が瘴気に適応しました。【瘴気無効】を獲得しました 』


「よしっ無効ゲット。これで心置き無く。【 聖なるセイクリッド 障壁シールド 】」


 二人の魔法が光の壁に遮断された。同時にサンドウォームからの攻撃を防いだ。輝澄達の前に進み追い越した。相田と輝澄はサンドウォームの登場に臨戦態勢を取る。


「【 溜聖チャージ 】たくさんチャージしようか。二分でどうでしょう。それまで魔物の攻撃と瘴気に耐えられますかね。相田さん。………………【 ヘビー 斬撃スラッシュ 】」


 瘴気で脱力していた時とはまるで別の技だ。俺は全力のスキルでサンドウォームの頭を両断した。


 二人は魔物の瘴気に充てられ、膝をついて倒れている。


『【 聖煙スモーク】を獲得しました

 【 聖氷アイス の槍ジャベリン】を獲得しました 』


 頭を斬られたサンドウォームが暴れ回り、背や腹で相田と輝澄を攻撃している。その間にゆっくりチャージした。サンドウォームのスキルで大きな地震が起きる。距離をとっているので、ダメージを受けているのは相田達だけだ。


「【 溜聖チャージ 】…………【 聖氷アイス の槍ジャベリン】」


 振り上げた俺の手の上に巨大な氷の槍が12本生成され、振り下ろすとサンドウォームを串刺しにする。

 

『サンドウォームを討伐しました。経験値を獲得します。レベルアップしました。レベルアップしました。レベルアップしました。』


 俺は倒れている相田を蹴飛ばす。

「相田。言い訳はあるか?」

「すみません。助けてください。全部、瑛太さんの指示です。」


 俺は倒れている輝澄を蹴飛ばす。

「あんたは?」

「なんなんだよ。この化け物にお前の力。Eランクダンジョンじゃなかったのか?」

「どうでも良い。言い訳はあるか? 俺を殺そうとした事について。」

「ねーよ。殺せなくて残念だ。」


「じゃあ。死ねよ。ここはダンジョンだ。殺される覚悟はあったんだよな?」


 嘘だ。殺すつもりはない。

 怒りはないが、反省はして貰うつもりだった。

 

 しかし、この発言が予想外の展開を生んでしまう。



 認識の外から誰かの声がした。

 


「Cランクダンジョンから原因不明の煙が発生した。協会職員に呼び出されて来てみたら、なんて事はないただの不正侵入者ですか。……ですが、殺すとか殺されるとか。見過ごせない程に拗れてますね。」


 俺の五感はレベルアップで人間のそれを超えている。それなのに全く気配がなかった。


「……黒石紅葉……さん……いや、は? Cランクダンジョン?」

「おや。侵入者の方は私を知っていますか。」


 輝澄の言葉に相田が反応する。

「序列第三位伝令使の杖ケリュケイオン のサブマスターがなんでこんな所に。」

「だから、言ったでしょう。あなた達は犯罪者なんですよ。ここのダンジョン攻略は、そこのFランクにしか許されていません。」

「……すみません。」

「でも、その馬鹿もさっき殺人予告をしてましたねー。うーん。とても聞かなかった事には出来ないわ。冒険者ですもの。両方とも犯罪者とその予備軍として協会に突き出しましょう。」


 入り口の方角からもう一人の男がやってくる。

「あれー? 紅葉。攻略者はハズレのババだけじゃなかったっけ?」

「本城さん遅いわよっ。不正侵入者。」 

「あらら、これはマズいぞサブマス。そいつ例の新入り輝澄瑛太だ。昨日、俺が面接して、さっき登録しちまった。まてよ……すると原因不明の煙。……そうか。もう一人が輝澄が言ってた研修生予定のやつ。能力は煙と言ってたからな。」

「どういう事?」

「原因不明の煙は、ソイツのスキルで、不正侵入者は二人ともうちのメンバーか予定のやつってわけだ。」

「……。」

「仕方ねー。目撃者のババは殺すか? そんで何もなかったで一件落着だ。」

「ここはCランクダンジョン。あんたも気づいてると思うけど、馬場くんは協会にとってAランク以上なのよ。」

「こっちはAランク二人だぞ。俺と三類の紅葉がいれば何も問題ないだろ。サブマスのくせにメンバーを守らないつもりか?」

「そういう事じゃない。注目されてるって事よ。…………もおーメンドクサイ。輝澄瑛太。あんた。当分はタダ働きを覚悟してよね。」

「……すみません。」


 俺は耳を疑う。さっきは殺すを大事にして騒いでいたくせに。くそ。世の中腐ってるな。三大ギルドのサブマスターも所詮こんなものなのか。急いで全てのステータスを振り分けた。


 

「【四姉妹 シスターズ】【変身 メタモルフォーゼ】」


 黒石紅葉の周りに四人の小さな修道女が現れる。そして、次の変身はスキルではない。はじめて見るがあれは三類覚醒者特有の能力だ。薄緑色の肌に角が生えている。今まで感じた事がない程の圧倒的な魔力がその場を制した。

 

「【鑑定】」

 

『 黒石 紅葉 18歳

 所持スキル

 【四姉妹 シスターズ

 4人の修道女召喚による全体バフ

 カカ:魔力増幅

 キキ:攻撃力増幅

 クク:素早さ増幅

 ケケ:ケケの再生能力貸与

 【剣技】

 全ての剣技がスキル化する 』



キュルキュルキュル

 

 

 無理だ。勝てるわけがない。


 Aランクはまだまだ別次元の力だった。


 一歩も動けない。


 俺はここで死ぬのか。


 ――走馬灯が頭を駆けめぐった。瑠衣、美優、千尋。叔父さんと叔母さん。父さんと母さん。――




「動くな黒石。全員が死ぬ事になるわよ。」


 黒石紅葉がスキルと変身を解除する。


「イラつく。お呼びじゃないのよ『戦女神』。」


 戦場に似つかわしくない美女が降臨したからだ。

 

「私の達也くんを殺そうとしたわね。ギルドごと潰すわよ。」


 美女は、顔を歪めた。今は悪鬼のようにダンジョンに馴染んでいる。

 

「冒険者協会だけじゃなく、あんたも関係してくるんだ。一体なんなのよソイツ。」


「黙れっ。脅しじゃねーんだよ。人のものに手を出してただで済むと思うのか? あ? 死ぬの? 死にたいの? 出来ないと思うのかよ?」


 怖い。それに人のもの? 俺が? いや誰だこの人は。全く身に覚えがない。



 『【少年団ボーイズ】を獲得しました

 【進化形態トランスフォーム】を獲得しました

 【剣術】を獲得しました

 【 溜聖チャージ 】【 斬撃スラッシュ 】【 ヘビー 斬撃スラッシュ 】【刺突 ピアス】が【剣術】に統合されます

 以降パッシブスキル【剣術】から自動発動します 

 統合された全てのスキルを再獲得しました 』


 

「……クッ。すみません。帰るぞ本城。」

「コイツらは――」

「――輝澄は除名だ。私は命が惜しい。」


 伝令使の杖ケリュケイオン の二人は去って行った。三位のサブマスが戦わずに逃げるという事は、この女性は一位か二位のギルドの人か? それも四天星クラスじゃないと辻褄が合わない。


 美女は目の前に来ると俺の肩に両手を置いて微笑んだ。

 

「はじめまして。九条美玲です。間に合って良かったわ。それで事件みたいだけど、この後どうする? 冒険者協会に寄った後、暇なら婚姻届けでも出しに行こっか?」


 っ! 黒石が圧倒されるはずだ。この方が九条美玲。新宿冒険者学園大学の理事長。お姉様だったのか。名目上は美優の彼氏だから身内ってことか。

 でも会話がぶっ飛んでません? 美優も変だけど、それ以上におかしい気がする。ひょっとして、大人の女性は全部こんな感じなのか。春奈さんも色気がやばかったし。

 

「助けて頂きありがとうございます。ですが、全力でお断りします。」

「キャー、カワイイ。達也きゅん。16歳で結婚は出来ないわよ。」

「そうですよね。あははは。お姉様、冗談がお上手で。」

「気持ちは本気よ。なんなら法律でも変えてみる?」



 こうして、俺のCランクダンジョン攻略は終わった。相田と輝澄は、お姉様がスキルで出したモノ ・・に引きずられ、一緒に冒険者協会に向かった。



 


―― 冒険者協会本部 


 

「会長大変です。都内にダンジョンと思われる塔が複数出現しました。」


「星野くん。……ついにPhase2が始まってしまったようだね。鍵の子はまだ育ってもいないと言うのに。……ここから一気に人類滅亡が加速するぞ。」


「会長、それは初耳です。モンスターとの戦いの鍵になる存在がいるのですか?」


「そうか。君には人類滅亡とフェーズしか話していなかったな。スキルとは、ダンジョンの副産物。そう思い込んでいるんじゃないか? 私達が戦うべき相手は、モンスターだけではない。」


 ゴクリ。私は唾を飲み込んだ。

 

 考えてもみなかった。ダンジョンよりスキルが先にくる可能性。敵は超常の類いではなく人間? 確かに反政府組織 テロリスト『死戒連盟』は会長よりも初動が早かった気がする。


 とてつもなく強大な何かのスキルが、この世界に変革を齎したとしたら。その答えを会長は知っている。

 

「教えてください。私達は何と戦っているんですか? 具体的に、私は何をどうしたら良いのですか?」

「はぁ~? 話は以上だが? お前の仕事は問題を見つけ部下達と対処すること。私の仕事は決定する事だ。」

 

「オイこら。くそ会長。終わらせていい話じゃねーだろ。毎回意味深な事言って放置しやがって。働いて欲しいなら、知ってる事全部話せやっ。辞めてやる。この緊急事態に辞職してやる!」 

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