天魔の子
かわくや
ごっちゃごちゃ
はぁー、話には聞いてたが……
「ホントに何も無いんだな」
そう呟く僕の視界には、どこまでも広がる青々とした平原。
後ろを振り向けば長い影を落とした森があり、人間を恐れる様子すらなく伸びた立派な木々がその体をこれでもかと主張していた。
普段ならあまりの冒険のにおいについ足を運んでみたくもなるのだが、今ばかりはそうも言っていられないのだ。
と言うのも……
すぅ、すぅ
僕の腕にはゆったりと胸を上下させる赤ん坊がいるのだから。
……とは言っても違う。断じて違うぞ?
この子はこんな年(17)で作った僕の子供でも無いし、何処からか攫ってきた子供というわけでももちろん無い。
この子は託されたのだ。昼飯を作っていた際、突然部屋にやってきた悪魔によって。
その話は……ずいぶん長くなってしまうので省略するのだが、そりゃあもう最初から色々と酷かった。
カギを閉めていたのにも関わらずの侵入から始まり、自分の事情を話すだけ話したかと思うと、「後は任せた」の一言で異世界送りだ。こちらの意思など有ったもんじゃない。
……はぁ、少し落ち着こう。
これだけだと、「なんのことだか」ではあるから、一応改めて何が起こっただけまとめておく。
それじゃあその1。
昼飯作ってたら部屋に悪魔を名乗る翼と角が生えた女が来ました!招いた覚えはないんだけどね!
そう、これが悪夢の始まりだった。鍵も閉まっているし窓も無い。それなのに奴はいつの間にか玄関に立っていたのだった。奴は堂々と「壁を抜けてきた!」とか言って実演してくれたのだが、やはり理不尽だと思うのだ。そう言うことが出来るのはせめて自分の世界だけにしてほしい。
郷に入っては郷に従え。
知性体としての常識ですよ。
まぁ、そう言ったイライラは抑えてその2。
一方的に事情を話してくる。
それが部屋に入ってきた奴が一番最初にしたことだった。
入って来るなり赤ん坊の入ったバスケットをこちらに押し付け、マシンガンの様に言葉を吐き出し始めたのだが、きっとしゃべることが好きなのだろう。途中途中に余計な感想が挟まるため無駄に長くなって……まぁ、ここに来た理由をまとめるとどうやらこういうことらしい。
先ず、淫魔の女王が珍しく地上で水浴びしてた天使に恋をする。
次に女王が天使に襲い掛かる。
赤ん坊:で、私が生まれたってわけ
と。
要するにこの子は天使と悪魔の間に生まれた子供と言うことだそうな。
……まぁツッコミどころには困らない様な話ではあるんだが、今は置いておくとしよう。
こんなのまで拾ってちゃ話が終わらねぇ。
んで……そうそう。少し話は逸れるが、これは淫魔の生態についての話だ。
淫魔と言うのは、この世に存在するどんな生物とも交わり、子を為すことが出来るらしい。
それはどうやら淫魔の強い遺伝子が有ってのことらしく、そう言った経緯で生まれた子供は身体的特徴や性別は母親である淫魔の方から多く受け継がれる。
だから淫魔の国において数すら少ない男の地位は低く、家畜程度の扱いしか受けられないんだとか。
そんな価値観が芽生えたからだろうか。
彼女たちにとって、男を生むということは自らが男に負けたという証明であり、性に関して自由である彼女らを縛る制約にもなるらしい。
さて、そう言った感じに淫魔の生態に付いて説明したわけだが、勿論、そうなると気になって来るのは例の赤ん坊だ。
「まぁ、こんなところに来ている辺りからある程度察しは付けられそうだが、確認は大事だろう。」
と、赤ん坊の下を脱がせたのがあっちでの出来事だった。
そして結果から言うのなら……
「……どっちなんだ?これ」
その赤ん坊の股に有ったのは、小さなポッチに、ぴったりと閉じた割れ目。
そう、いわゆるふたなりという奴らしいのだ、この赤ん坊は。
まさかこの言葉を生身の人間相手に使う日が来ようとは思っても見なかったが、意外と違和感がないもんだ。
そしてその後、一応悪魔にも「これはどうなんだ」と尋ねた所、案の定ここに何故来たのかを考えたらわかるんじゃないかと言われてしまった。
まぁ、とにかく。
結局悪魔がこっちに来たのはこのままだと知生体としての扱いすら受けられない赤ん坊を救うためと、自分の立場を守るため。
女王がそう言った目的をかなえるために遣わされたらしい。
後は……この子が大人になるまで守ってくれる、かつ、城に届けてくれると褒美があるとかなんとか言ってた気はするが、考え込む間もなくこっちに飛ばされたのでそのあたりはうろ覚えだ。
はぁー、とにかくしょっぱなからやけにごちゃついたが、どうやらこれが……僕の異世界生活のはじまりらしい。
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