神様は笑いながら僕らを蘇生する

伊流河 イルカ

第1話

「死にたいな。」


本気か冗談か、誰でも一度は考えるんじゃない?


恋愛で好きな人に振られた次の日の朝の教室。

部活でレギュラーを取れなかった夏。

学校のテストが返ってきた日の帰り道。


色々なことで僕達は「死にたい。」と考える。


僕も、その時考えていた・・・・・・「死にたい」と。


何でそう思ったのかは、思い出せなかった。恋愛、部活、学業、何が理由で僕はそんな事を考えたんだろうか。


多分、大したことじゃない、大人になったら忘れてしまうような事、もしくは笑い話に出来る事だったと思う。忘れてしまったから分からないけど・・・


分からなくてもどうでもいい。もう、今となっては・・・・・だって・・・


僕は死んでしまったのだから。


死んでしまった・・・願いが叶ってしまった。


願いなんてほとんど叶った事なかったのに、そりゃないよ神様。


電車に曳かれた。故意なのか事故なのか、それすら思い出せない。確か飛び出しの多いホームだとは聞いたことがある。



・・・・・・・・・・あれ?・・・死んでるよな?


僕の思考はいつまで続くのだろうか?駅を通過する電車に曳かれたのだ。考えたくないが、身体はバラバラになっているだろう。


実際、身体の感覚が無い。視界も真っ暗で、何も聞こえない・・・・しかし、意識はしっかりしている。


実は生きている?それともこれが死後の世界なのだろうか?


天国も地獄もなく、真っ暗な孤独が、このまま続くのだろうか?とてもじゃないが正気でいられる自信がない。


「目覚めなさい、勇者達。」


突然女性の声が耳に入った。長時間自問自答を繰り返していたのだ、そういった妄想を自分がしてしまうのも無理はないが、イマジナリーフレンドを自分が作ったことは少しショックだ。


「もう体は動くだろ?目を開けな。」


再び女性の声が聞こえる。女性というには、少し声が幼いと改めて聞くと思った。女性というより少女だな。それよりも彼女はなんと言った?


「おーい!マサキ君!君だけ目を開けてないよ?」


少女に名前を呼ばれた。その言葉を理解した時、自分の身体が存在していることに気が付いた。さっきまでは無かった身体に、電流が流れる。


「やっと目を開けたね、随分のんびりな子だなー。」


僕が目を開けると、目の前には修道服を着た、銀髪褐色幼女がタバコを吸って立っていた。繰り返すが少女ではない、幼女だ。


「キャラ盛りすぎじゃない?」

「おいおい、蘇って第一声がそれか、愉快な勇者様がきたもんだ。」


蘇った?僕が?自分の身体を見る。傷一つなかった。電車に曳かれて?というかここはどこだ?


教会?十字架は無いが、建物の作りが教会に似ていた。地面に五芒星が描かれた魔法陣があり、その星の先端に僕を含めた五人が立っていた。


「どこだよここ。」

「なんで私・・・・。」

「・・・・・。」


僕以外の四人のうち、三人は困惑している様子だった。その三人は僕と同じで学生服を着ていた。多分僕と同じ状況なのだと思った。


しかし、彼女だけが様子が違った。


緑色のマントを纏い、その下には『皮の鎧?』を着ていた。短パンとタイツを履き、腰のベルトには短剣を二本ぶら下げていて、肩には弓矢を背負っている。


しかし、僕は彼女の異様な姿より、その顔に目線を向けていた。


「・・・・・何?」


マントの彼女は僕を見て、怪訝そうな顔を浮かべる。僕以外は彼女の姿を見ていたが、僕だけが彼女の顔をみていたからだ。


「どこかで会ったかな。」

「ナンパ?」

「いや・・・・・」

「冗談よ。」


そう言った彼女は真顔のまま僕をじっと見た。真っ黒な瞳、瞳と同じ色の長いストレートの髪、後ろ髪を一つにまとめられているが揃えられた前髪で、日本人形の様だと、彼女を見て思った。


「その武器とかはどうしたの?」

「それはそこの馬鹿が今から説明するわ。」


そう言ったマントの彼女は、修道服の幼女の方を見た。僕もつられてそちらを見た。


「馬鹿ってひどいなーカナちゃん。」

「・・・・・。」


幼女は黒髪の少女・・・・名前はカナだったか?幼女はカナに笑顔を向けて笑ったが、カナは目も向けずに無視した。


この二人は今のこの状況を理解している。


「お前ら誰なんだよ、てかここどこだよ。」


魔法陣の五人の中の一人の、金髪の男が怒鳴るように二人に聞いた。金髪の大きな声に、残りの二人はびっくりしていた。


「威勢がいいねヒロシくん、君みたいな子は期待できる。」

「あ?」


声だけでなく、ヒロシは身体もデカかった。成人男性でも逃げ出すような容姿をしているヒロシに、幼女はケラケラ笑いながら答えた。その態度にヒロシは睨みつけた。


「あの・・・・・私達死んでないんですか?」


五人の中の一人、セーラ服を着たショートの茶髪の少女が、恐る恐る幼女に聞いた。何故か全身ずぶ濡れで服が張り付いている。男達は目をそらした。


ずぶ濡れの彼女の言葉を聞き、幼女はニコリと笑った。不気味な笑顔に、睨んでいたヒロシは後ろに少し下がった。


「死んでるよスミレちゃん、君たち5人みーんな死んでる。」


その言葉にカナ以外の三人全員が息をのんだ。この反応からして、やはり僕以外も一度死んでここに来ている。


「死んでいるならこれは異世界転生なのか?」

「そうだよジュンペイくん。オタクは理解が早くて助かるね。君達は魔法でこの世界に来た。」


五人の中の最後の一人、眼鏡を掛けた小柄な男、ジュンペイに幼女は答えた。魔法?にわかには信じがたいが、この状況では否定もできない。この幼女が僕たちをここに連れてきたのか。


「君はいったい何者なんだ?」

「僕はノアこの世界の神様だよ。」


僕の質問にノアは立ち上がり、威張ようなポーズをとりながら答えた。その言葉にスミレとジュンペイは驚き、ヒロシは小馬鹿にする様に笑っていた。


「何が目的なんだ?」

「君たちには今から、化け物たちと戦ってもらう、死ぬ気でね。」


僕の問に答えたノアは、笑ってはいるが冗談などみじんも感じない目をし、その言葉は妙な雰囲気を醸し出していた。


「は!バカバカしい、何が神様だ付き合ってられるか、ドッキリか何かならもういいぞ。」

「ドッキリなんかじゃないよ、僕は神様で君たちは一度死んだ。」

「・・・っち、しつこいぞ。」

「あんなバイク事故で君は、自分が生きてると思うの?」

「・・・・・・!」


その言葉にヒロシは驚いた。恐らく死因が当たったのだろう。ヒロシの顔は怒りの表情を浮かべ、無言でノアに近づいた。


「なんだか知らねえが、しつこいって言ってんだろ。あんまりなめてるとガキでも許さねえぞ。」


ヒロシはセリアの胸倉をつかんだ。スミレとジュンペイが動揺し、カナはため息をついていた。


「この手を放しな。」

「あ?」

「離さないと死んじゃうよ?」

「お前いい加減にしろよ。」

「君たちは僕が魔法で作ったんだから、生かすも殺すも僕の手の中なんだよ。」


胸倉をつかまれても、一切動じないノアに向け、ヒロシは拳を握って見せた。ノアは両手をヒロシの頭の横に添えた。


「もう・・・三機しか無いのに・・・本当に君たちは死にたがりだな。」

「・・・・は?」


その一言と共に、ヒロシの頭は破裂した。


「いやああああああああああ!」


飛び散ったヒロシの頭の破片を見て、スミレは悲鳴を上げ、ジュンペイは嘔吐していた。しかし、僕はそのあとの光景に驚いた。


「治ってる。」


バラバラになったヒロシの顔が一つにまとまり、時間が巻き戻ったように元の状態に戻っていった。まるでさっきの出来ごとが嘘だったようだ。


「これで信じてもらえたかな?」


元の顔に戻ったヒロシは、形を確かめるように自分の顔を触った。ノアがヒロシの顔を覗きこみ笑う。ヒロシの顔が真っ青になった。


「君たちにはこれから、死んでも戦ってもらう。」

「何で?」


僕の言葉を聞き、セリアは更に笑みを浮かべる。最初と違い彼女が怪物に見えた。


「だって君たちは【死にたい】んだろ?だったらいーぱい死なせてあげる。」
















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