勇者パーティーを追放された闇魔導士は面倒事を避けたい

ノン・タロー

俺は面倒事を避けたい

 木漏れ日が差す森の中、歳の頃18歳くらいの黒髪に黒いズボンに黒い服、さらに言えば黒いマントと黒ずくめな格好で、腰にはこれまた柄の黒い片手剣を差した一人の魔導士風の男が歩いていた。


 その黒尽くめの男こと、俺「クロト」はただ一人森の街道を歩いていた。


 実を言うと、少し前までは仲間がいた。


 その仲間というのはいわゆる勇者パーティーなのだが、なぜ俺が一人になっているのかというと邪魔だから追い出された、以上!


 もう少し詳しく説明しろ?仕方ない、なら話すとしようか。


 それは今から約一時間ほど前のことだ……。




「おい、クロトちょっといいか?」


 デナンという少し大きめな街の宿屋で泊まっていた俺は、一階にある食堂へと向かうと一人の男に呼ばれた。


 彼の名は「ニクス」。パーティーのリーダーにして勇者だ。


 その彼の横には仲間の剣聖の男「マックス」、ハイプリーストの女「サラサ」、ハイウィザードの女「サナ」の姿があった。


「ニクス、どうしたんだ?」


「実はな、みんなと話し合ったんだがお前パーティーを抜けてくれないか?」


「は……?」


 突然のことで思わず目が点になる。


「は?じゃねえんだっ!目障りなんだよお前は……っ!!何もしてねえくせに当たり前のように俺達のパーティーに居やがって……!」


 怒りをあらわにして詰め寄ってくるマックス。


「あなたは足手まといだと言っているのよ!ホントあんたは無能な上に理解力までないのっ!?」


 高圧的に見下してくるサラサ。


「実際魔法はハイウィザードのあたしのほうが強いし……、クロトの闇魔法って言ったって大した事ないじゃない。ていうか邪魔なのよね、わかるっ!?」


 変にマウントを取ろうとしてくるサナ。


 サナは俺の魔法は大した事ないと言っているが、その逆だ。

 俺の魔法は威力が強すぎ、みんなを変に巻き込むからあえて弱い魔法を使ったり、後方支援に徹していたのだが、それが気に入らないようだ。


「つまりだ、お前は邪魔なんだよっ!!お前はもうここには居場所はない!さっさと失せろつってんだっ!!分かったかこのカスっ!!」


 そして、ニクスに至っては俺を見下すのがそんなに嬉しいのか、薄ら笑いまで浮かべて俺を見下している。


 コイツはリーダーシップがあるのだが、こうやって人を見下す悪いクセがある。

 こう言うところはクズだなと俺は思うが、抜けてくれと言うやつに注意する気も特にない。


「……分かった。そこまで言うのなら出ていこう。じゃあな」


 俺は頷くと彼らの元を去ることにした。

 だが、ただ去るだけではない。去り際に俺は彼らの装備に施していた能力を底上げする魔力護符アミュレットの魔力を解除し彼らのもとを去った。



 そして、現在に至る。

 別にあのパーティー固執する気もない。


 それに、どちらかと言うと勇者パーティーなのだから最終的には魔王と戦わなければならない。

 そんな事は面倒なこと極まりない。


 そう考えると勇者パーティーを抜けてホッとしている自分もまたいる。



 森の中を歩いていると、複数の人の姿が目に付いた。


「あれは……野盗とそれに襲われている女か……?」

 

 森の街道を歩いてどのくらい進んだだろう、すぐ目の前に野盗と思われる数十人の男達とそれに囲まれる一人の女の姿が見えた。


 女は見た目俺と同じ年齢くらいだろうか?

 銀色のショートヘアーの髪に赤いライトアーマーを身にまとい、ロングソードを手にしていた。


 見た目については狼のようなケモミミ、さらに腰には狼のような尻尾が付いていることから狼の半獣人の女性のようだ。


 普通ならここでピンチの女性を颯爽と助けに入るところなのだろうが、如何せん俺は面倒事が嫌いだ。


 仮にあの狼の半獣人の女を助けたとしても何かしらの面倒事に巻き込まれるのは目に見えている。


 俺は街道を逸れ、森の中へと入るとその女と野盗達に目を合わせることなくそそくさと逃げる事にした。


「おい!そこの男っ!貴様何者だっ!この女の仲間かっ!?」


 しかし、物事はそこまで上手くいくはずもなく、あっさりと俺は野盗に見つかってしまった……。

ち、目ざといやつだ。


 その野盗の頭と思われる人物は、無駄にガタイの良い体にスキンヘッドに無精髭、レザーアーマーを身にまとい、手には円月刀シミターなどと、まさにザ・野盗と言った感じだ。


 いや、こんなの本当にいるものなんだなと逆に感心する。


「誰だと聞かれてもな……、俺はただの旅の魔導士だ」


 俺は頭をポリポリと掻きながら面倒くさそうに答える。


「お前達が用があるのはあたしでしょっ!?この人は関係ない!あなたはあたしの事は気にせず早く逃げなさいっ!!」


 狼の半獣人の女は手にした剣を野盗の頭と思われる人物に向け、俺に逃げるように促す。


「分かった、じゃあそういう事で」


 その好意を無下にしては悪いと思った俺は、言われた通り街道を堂々と歩き、彼女のすぐ横を通り過ぎる事にした。


 いやはや、無関係の者を巻き込むまいと俺を逃がしてくれるとは、なかなか良くできたお嬢さんだ。


「ちょっと待ちなさいよっ!!」


「ぐえ……っ!?」


 腕組みをし、うんうんと頷きながら立ち去ろうとしていた俺のマントを何を思ったのか、その女は引っ張ったのだ!


 その為否が応でもマントで首が絞められる……!


「お前は何をするんだっ!!」


 俺はマントを掴んでいた彼女の手を振り払うと、そいつへと詰め寄った!


 人のマントを引っ張って首を絞めとは非常識きわまりないっ!!

よくできたお嬢さんだと感心した俺がバカだったっ!


「何をするって、普通ここは助けに入る所でしょっ!?」


「お前が気にせず逃げろと言ったんだろっ!だからお言葉に甘えて去ろうとしていただけだっ!」


 まあ、彼女の言うことも一理あるのだが、逃げろと言ったのもまた彼女なのだ。

 俺はそれに従ったまで、そう!俺は悪くないっ!!


「だからって、ハイそうですかってバカ正直に去ろうとする人がどこにいるのよっ!!」


「いるさ。ここに一人だけな!」


 怒りを顕にしながら詰め寄ってくる彼女に対し俺はあくまでもノラリクラリと躱していた。


「おい!お前らっ!そこでいちゃついているが、俺達のことを忘れているんじゃないだろうな……っ!?」


 すると、無視をされ頭にきたのか野盗の頭と思われる男が詰め寄ってきた。

 いや、別にいちゃついている気はないのだが……。


「いや、無視するも何も元から俺は無関係だ。」


「兎に角ほら、あんた魔導士なんでしょっ!?チャチャっとコイツら倒してよっ!」


「だが断る!」


「何でよっ!?」


「まず、俺がお前を助ける理由がない。次に仮にお前を助けると別の面倒事に巻き込まれそうだ。最後に、俺は面倒事が嫌いだ、以上」


「くう……っ!」


 彼女に対し俺は正論(?)を並べ立てると、言い返せないのか彼女は俺をただ悔しそうに睨んでいた。


 そんな事されても俺には関係ないし……。


「そういう訳で、俺は野盗が手を出してこない限り俺は何もしないし、そこの女の加勢もしない。後は好きにしろ」


「だからと言って、ハイそうですかって通すと思ったかっ!?貴様も身包みを置いて行ってもらおうかっ!」


 野盗の頭は何を考えたのか、手にしたシミターを俺の目の前へと突き付けてきた。


 コイツは人の話を聞いていたのだろうか……?


 野盗という人種は人の話を聞かないようだ。

ち、仕方ない……。


「おい、そこの狼の半獣人の女。お前を助けたら何をしてくれる?」


「え……?」


 俺の問に彼女は頭に浮かべていた。


「別に俺はお前ごとコイツらを吹っ飛ばしても問題はないと言っているんだ」


「わ……、分かったわ……っ!なら……、あなたの言う事を何でも聞くからこいつ等を倒してよっ!!」


 俺の問いに対し、彼女は矢継ぎ早に答えた。


 それにしても、ふむ、何でもか……。と言うことは身体でもいいということだろう。


 俺は品定めするかのようにその女の身体を眺める……。


 銀色のショートヘアーの髪に、小さくはないが無駄に大きくもない丁度いい大きさの胸、引き締まったウエストに少し大きめな色気のある尻……。


 まあ、悪くはないか……。

俺も男なので、勿論女の体には興味はある。


 野盗を蹴散らして女を抱け、さらに野盗の宝も頂戴出来るとすればまあ、悪くはないか……。


「分かった、という訳で野盗の諸君にはここで消えてもらおう」


「ふざけやがって……!オメェらっ!コイツラを片付けちまえっ!!」


 野盗の頭の捻りのない言葉と共に野盗たちが一斉に襲い掛かってくる……っ!


 しかし、その間にも俺の唱えていた魔法は既に完成していた!


影槍シャドージャベリンっ!!」


 俺の唱えた力ある言葉に呼応するかのように野盗達の足元にある影が幾つもの鋭い槍と化し、断末魔の悲鳴を上げる間もなく彼らを串刺しとした!


「す……、すごい……」


 一瞬にして野盗たちを葬り去った俺に対し、その女はただ呆然と感嘆の声を上げていた。


 俺は魔導士だが、闇魔法を得意とする魔導士なのだっ!


「さて、これで終わりだな。そう言えば、自己紹介がまだだったな。俺はクロト、闇魔法を得意とする旅の魔導士だ。お前の名は?」


「え……?あ、ああ……。あたしはレイナ……。見ての通り狼の半獣人の剣士よ……」


 俺の問にレイナという女はハッと我に返ったようだ。


 それにしてもレイナか……、いい名だな。


「さて、レイナ。約束を果たして貰う前に一つ頼みを聞いてもらえるか?」


「頼みって何……?」


 俺の言葉に彼女は明らかに警戒していた。


 これから自分を犯すかもしれない男の頼みだ、ロクなものではないと思ったのだろう。


「難しいことじゃない、ただ野盗達のアジトを知っていたら連れて行ってほしい」


「……分かったわ。あたしもそこに用事があるし」


 しかし、彼女が思っていたことと違ったからか、やや拍子抜けした顔で頷く彼女の案内で、俺は野盗のアジトへと向かったのだった。

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