第20話 SLOUGH

「おはよ、夏輝くん」


「あ、おはよう、早瀬」


 ファミレスで食事をしたあの日以来、俺と早瀬は一年の時のように、同じ電車の車両で通学するようになった。俺も、挨拶をする声に吃りが無くなってきた。


 もう、早瀬の隣に座っても緊張しなくなった。俺は、対人の恐怖を克服しつつある。


「おい早瀬、起きろ。置いてくぞ」


 俺は、隣で瞳を閉ざした早瀬の肩を揺さぶった。どうやら、昨日の居酒屋のバイトは人手が少なく、団体客の予約があったようで、疲労が溜まっていたらしい。


「あ、ごめん。寝てた」


「見れば分かる」




****



「おはよう、信濃」


「お、おはようございます、羽田氏~!」


 俺は、早瀬以外の班員にも挨拶をするよう心掛けた。入学当初、部活に誘った信濃と、早瀬の友達で、グループワークを通じて仲を深めた西園寺さんとならば、挨拶をし易かろう。


「おはよう、羽田くん。冬紀ちゃん見なかった?」


 西園寺さんは、どうやら早瀬を探しているようだった。


「早瀬は、学級委員の集まりがあるから、生徒会室に行ったよ」


「ありがとう」


 西園寺さんは、何か用事があるようで、早足で廊下へと出て行った。教室に残っているのは、数人の学友と、俺と、信濃のみ。俺たちは皆、朝の登校時間が早い性格の人間だ。


「羽田氏、最近早瀬さんと仲良さげじゃないっすか?今日も、教室に入るタイミング一緒だったし、休み時間もよく話してるじゃないっすか……」


「ダメか?」


「いや……羽田氏、最近もそうですけど、一年の頃と比べて変わったなーと思いまして。声もはっきりしてますし、髪型が整ってること、俺は見逃さないっすよ」


 信濃は、椅子を180度回転させて、俺の机に肘を突いた。


「早瀬さんから聞きましたよ。この前の金曜日、早瀬さんと二人きりで駅前のファミレス行ったんすか?」


「ああ。来月の最初の金曜も行く予定だから、お前も来る?」


「えっ!誘ってもらえるんですか?!」


「ああ。一応、早瀬にも聞いておくけど」



 俺と信濃、それから早瀬と西園寺さんで、夕食会を開くことが決まった。


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