第15話 パリ・コレクション?


(外出 服装 高校生)


 人を不快にさせない、整った容姿を持って生まれたかったものだ。俺は、手持ちのスマホで検索しながら、心底そう思った。


 鏡の前に映る夏輝という人間は、あまりに醜い顔をしている。自分でも見つめているだけで吐き気をもよおすこの顔を、どうにかマシな感じに落ち着かせなければならない。そうでもしなければ、俺の気が休まらない。


「いいじゃん!カッコいいよ、夏輝!」


「色気付きやがったな、豚野郎」


 母と姉からは絶賛されたが、俺自身は納得していなかった。この顔が、あまりに醜いから、何を着ても、どうしようもないのだ。


 不幸中の幸いか、高校に入学してからスキンケアと脱毛を自宅でしていたから、肌の感じは清潔。中学生の頃は、ニキビと乾燥肌が酷かった。


 それから、姉が元カレのアクセサリーを貸してくれて、十字のネックレスを首からぶら下げている。……カトリックの信者?多分、そういう類の十字ではないのだろうけど。ただのお飾り、私は無神論者です。


「もう太陽が沈む時間帯なんだし、帽子はいらないでしょ」


「え、いるわ。これで目元隠せるだろ」


「それじゃダメでしょ。置いていきなよ」


 姉に、黒の帽子を取り上げられてしまった。このキャップ型の帽子さえあれば、人の目を見ないで済んだのに。



 上は、ちょっと大きめの黒のTシャツ(無地)、下は、これまた大きめの黒のズボン。通気性があって、肌触りは悪くなかった。


 眉毛を剃刀で整えた顔は、姉に言わせれば「整った感じがする」らしい。


「たかがファミレス行くだけなのに、めんどくさい……」


 俺は、マリアナ海溝ぐらい暗く深いため息をついた。どうして、少しの外出のためだけに母と姉の着せ替え人形の玩具にならなければならないのか。


 そうして周囲は暗くなり始めて、時計の短針が7の数字に近づきつつあった。


「じゃあ、行ってきます。10時には家に帰ってくる。」


「ええ~いいんだよ、夜中まで遊んできて~」


 母は、俺を玄関から送り出してくれるようだった。


「未成年の午後11時以降の外出は、条例違反です」


 それだけ言い残して、俺は家の鍵で玄関を施錠して、駅へと歩き出した。空の高いところを目指して三日月が昇りつつあり、髪の間を縫って吹く風の空気は冷涼。というか、寒い。もうじき、梅雨の季節なのに……


 俺は180度、反転して、家へと戻った。


「ただいま」


「あれ、忘れ物?」


「羽織るもの、欲しいな」


 あまりにも肌寒いので、黒のパーカーを着た。


 そうして、再び家を発った。


 着慣れない服だからか、体がムズムズとした。俺は、おしゃれをすることに興味が皆無であった。泥人形に着せた秀麗な服が、かわいそうだとは思わないか。



 泥は、いくら磨いても飾っても、汚い泥であることに変わりないのだ。

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