31 街に行きたい



「雑な作りだな。これぐらいなら、領の鍛治師でなくともいいだろう」


 諦めたのか、マックスがクナイを眺めてそう言った。


「それはつまり?」

「そこの街に行ってみるか」


 そういえば、俺、あそこの街に行ったことないな。

 この前、翼竜と一緒に落ちたのは数に入らないだろうし。


「よし、じゃあ、行くか」

「うぎっ」


 俺の言葉にマナナが反応した。


「あっ」

「むっ」

「う〜?」


 俺の呟きにマックスが気付き、マナナが首を傾げる。

 世にも珍しい、竜の角と翼と尻尾。


「そいつは無理だろう」

「だなぁ。マナナは留守番な」

「うぎぃっ!」


 喋れないくせにこっちの言葉は理解してるよな。

 あるいは自分に不利益だということを勘で察知してるのか?


「うぎぃっ! うぎぃっ!」

「あっ、こいつは離れない気だ」

「それなら、俺だけが行くか?」


 マックスは寝る場所がないので夜には街に戻る。

 そのついでで街の鍛冶屋に依頼する気だろう。


「ふざけんな。依頼する本人がいないのに武器ができるわけないだろう」

「お前、そういうところは雑じゃないよな」

「おう、ふざけんなよ。俺ほど繊細な人間がこの世にいるか」

「お前が繊細ならこの世の人間の大半は脆弱だよ」

「なんだとう!」

「うぎぎっ!」

「なんでお前は俺を威嚇するんだ⁉︎」


 マナナに吠えられて、マックスが動揺する。

 むう、俺も少し頭を冷やすか。


「マナナ、お前のその頭の角とか、背中の翼とか、尻尾とか」


 と、ツンツンと指でつついて教えてやる。


「俺と違うものがあるだろ? それは珍しいんだ」

「うう〜」

「うん、カシャとかゼルとかも俺と違うのがついてるな。でもあの二人は一緒だろ」

「う〜」

「ははは、心配するな。それがあっても俺とお前は一緒だよ」

「うっ!」

「でも、街には連れて行けないけどな」

「うぎぃぃぃぃぃぃぃっ!」

「はっはっはっ、怒るな怒るな」

「お前ら、会話ができてるのかよ」


 マックスに呆れられた。

 まぁ、マナナほどじゃないが、声の調子とか表情とか視線の動きとかで察することはできるな。


「うぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 そして、マナナが吠えるのをやめない。


「おい、そいつなにか変じゃないか?」

「うん?」


 魔力に動きがあるな?

 なにかする気か?


「爆発とかしないだろうな」


 マックスが距離を取ろうとする。

 俺はマナナに抱きつかれているんだが?


「マクシミリアン君? まさか孫にして親友を放置しないだろうね?」

「はっはっはっ。俺の親友ならその程度は余裕だと信じている。きっと孫も守ってくれる! おい、こっちに来るな。家にも行くな。森だ。森に走るんだ」

「逃げようとしてんじゃねぇか」

「やめろ、近づくんじゃない」

「お祖父ちゃん、抱っこ〜」

「やめろ〜〜っ!」


 マックスが叫んだところで、マナナが全身で光を放った。

 咄嗟に目を閉じたから良かっ……ああだめだ。チカチカする。


「う〜?」

「ああ、大丈夫」


 マナナに心配されたが、この程度は魔功ですぐに治る。

 視界がはっきりしてから見てみると、しがみついたままのマナナにはっきりとした変化があった。


「お?」


 マックスも気付いた。

 いや、気付かないとおかしいか。

 マナナにあった、紫水晶みたいな角と翼と尻尾。

 そのどれもがなくなっていた。

 ただの紫髪と目の女の子になってしまった。


「う〜?」

「おお、すごいすごい」

「うう〜っ!」


 頭を撫でてやるとご機嫌に笑う。

 喋れないのは相変わらずか。


「まぁ、とりあえず……」


 頭を撫でながら、俺は言う。


「まずはゼルに自慢しよう」


 あいつも、こんなにすぐにできるとは思ってなかっただろうからな。

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