21 空の覇権について
さて、人里で暴れた竜を倒してめでたしめでたしではない。
いままでなかったことが起きたということは、その原因がどこかにあるということだ。
竜が争ったのを縄張り争いだと思っているが、だとすれば、いままで争いがなかったのはどうしてなのか?
あの竜よりも強い存在がいたからじゃないのか?
だとすると、いま縄張り争いが起きたのは、その強い存在が弱ったか、いなくなったか……。
竜どもの争いはこれで終わるのか?
「というわけで、ちょっとこの辺りを見てくる」
「ダメです」
ソフィーに言うと、ニッコリ拒否された。
「なんでだ?」
「あなたが子供だからです」
「いや……」
「ダメです」
中身は大人だぞと言おうとしたが、ソフィーの態度は崩れない。
「そのことに関しては、この土地の人々も懸念していて、ちゃんと調査しています」
「むう……」
ソフィーが折れない。仕方がないので調査は諦めた。
あの日以来、別の魔獣や竜が騒動を起こすということもなかったので、無駄足になるかなと思ったのもある。
もしかしたら、片方がよそから流れてきて争いになったのかもしれないしな。
なんて考えていた、ある日。
それを感じた。
「うん?」
強大な魔力が空を駆け抜けていった。
「なにか、消えたな」
だけど、それだけじゃない。
大半の魔力が世界に拡散する一方で、ほんの一部が一点に収束したように感じたれた。
「気になるな」
今日のソフィーは来客の相手をしている。
あの一件で知り合った貴族の中にはソフィーに惚れ込み、足繁く通ってくる者がいる。
実は第三王妃のマリアもその一人だ。
彼女は生まれてきた娘をソフィアと名付けたぐらい、ソフィーに傾倒している。
さすがにここにやってくることはないが、手紙と一緒にいろいろと送ってくる。
ソフィーは女性に人気を得やすいのかもしれない。
ともあれ、今日の彼女は忙しい。
森に遊びにいった俺の帰りが多少遅くなったところで、気付かないだろう。
「行ってみるか」
そういうわけで、魔力が集まった場所に向かってみることにした。
気配の方に向かって飛翔の魔法を使って空を行く。
「さて、なにがあるかな?」
こうやって、個人の興味の赴くままに動くということは、実はあまりしたことがない。
ちょっと、楽しみになってきた。
●●とある魔法使い●●
「ふはははははは!」
エルホルザからさらに北にある高い山。その頂で、その魔法使いは笑っていた。
人の近寄れない峻厳な山の頂はテーブル状に磨かれており、濃い生き物の臭気が残っている。
だが、生き物の姿はなく、ただ中央に濃い暗紫色の光を宿す大きな卵状の物体がある。
「この私が生きている間にこの僥倖に出会えるとは!」
魔法使いは卵状のそれを前に、喜びのあまり笑いを止められなくなっていた。
「手に入れることができたぞ! 魔晶卵!」
魔晶卵とは、卵生の魔獣の腹で変質した卵のことを指す。
強力な魔力を内包したそれは、魔力を扱う者にとっては、強力な外部魔力保存庫として使用することができる。
また魔晶卵は、時間を置けば失われた魔力を周囲から補充することもできる。
魔法使いで例えれば、個人で使用できる魔法の回数を増やし、あるいは一人では再現不可能な魔法を使うことができるなど、個人での魔力の限界に悩むことの多い魔法使いにとっては、垂涎の品だ。
「くくくく、しかも竜の魔晶卵だ! ここに内包された魔力はいかほどかぁ、へぶっ!」
ふらふらと魔晶卵に近づこうとしていた魔法使いは、突然に襲われた衝撃によって吹き飛ばされた。
「な、なんだぁ⁉︎」
勢い余って山から滑り落ちそうになっていた魔法使いは、なんとかギリギリで踏ん張って衝撃の正体を見た。
そこには、空中に浮いた子供がいた。
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