第21話
大柄のオークは馬を降り、斧を肩に乗せて歩いてくる。
「お前か、我々の仲間を殺したのは?」
「お! こいつしゃべるぞ。他のオークとは違うみたいだ」
呑気に話す正吾に、エリゼは危機感を露わにする。
「知能の高いオークは希少種です。たぶん、オークキングと呼ばれる個体かもしれません。気をつけて下さい!」
エリゼは剣を構え、眼前のオークを睨む。オークは下卑た笑みを浮かべ、正吾とエリゼを交互に見た。
「まあ、仲間を殺していようがいまいが、殺すことに変わりはないがな」
オークは突然走り出し、斧を振りかぶって思い切り振ってくる。
正吾は「危ねえ!」と後ろに飛び退き、なんとかかわす。他のオークとはスピードが違うようだ。
正吾は剣を構えて相手を睨む。
「エリゼ! 俺がこいつを倒すから、他のオークが邪魔できないように、牽制しておいてくれ」
「分かりました!」
正吾とエリゼの会話を聞いた大柄なオークは、クックックと笑い出す。正吾は眉間にしわを寄せた。
「なんだ? なにがおかしい!?」
「ふんっ! 他の者たちは手を出さん。俺とお前の一騎打ちだ。そして俺が勝ち、女は戦利品として持ち帰るだけだ」
「ほお~そうか、やれるもんならやってみろ!!」
正吾は【豪腕】と【疾走】のスキルを発動する。一気に距離を詰め、剣を振るった。
オークは斧で剣を弾き、さらに斧を振るってくる。やはりパワーとスピードが他のオークに比べて段違いだ。
剣で斧を受けるが、押し込まれてしまう。
「くそっ!」
なんとか態勢を立て直し、剣を撃ち込む。それでもなかなか一撃が入らない。手こずっていると、相手の斬撃を剣で受け、吹っ飛ばされてしまった。
正吾は地面で一回転し、その勢いを使って起き上がる。やっぱり強ええ!
「正吾様! 加勢します」
「いや、やめろ。相手が一騎打ちって言ってんだ。こっちが加勢してもらっちゃあ、恥になるからな」
「……分かりました」
エリゼは不承不承といった感じで後ろに下がった。正吾の面子を立てたのだろう。女に心配させるとは情けないな。と正吾は唇を噛む。
「どうした? 女の力を借りないのか? 俺は一向にかまわんぞ。お前程度の力で俺には勝てん。死に物狂いでかかってこい!」
後ろにいるオークたちも笑い声を上げていた。こんなに小バカにされるとは。正吾は込み上げる怒りを抑えられなかった。
「上等だ! てめえら全員、徹底的にぶちのめしてやるよ!!」
正吾は地面を蹴り、一気に駆け出した。
MP50を消費して、スキル【竜気解放】を発動する。全身がオーラに包まれ、力が
正吾が振り下ろした剣をオークが斧で受ける。だが、踏ん張ることができずに後ろに下がった。
顔を歪めたオークを見て、正吾は口の端を上げる。
「どうした? さっきまでの余裕がなくなってるぜ」
「おのれ……」
大柄のオークは剣を弾き、力を込めて斧を薙いでくる。正吾はふんっと笑い、軽々と攻撃をかわした。【竜気解放】を使ってステータスを二倍にした今、オークの動きは緩慢にしか見えない。
【疾走】を使い、一気に踏み込む。
相手は反応できない。横から薙ぎ払った斬撃を斧で防ぐものの、衝撃でバランスを崩す。正吾は間を置かずに畳みかけた。
剣で相手の胸を斬り、返す剣で右足を斬り付ける。
深くはないが確実にダメージを入れた。大柄のオークは怒り狂い、「貴様!」と叫んで突っ込んでくる。
斧と剣がぶつかり合う。凄まじい衝撃音が鳴り響くが、やはり押し勝ったのは正吾だ。ふらついたオークの腹に、前蹴りを叩き込む。
オークは
横に振った剣が相手の頭を捉える。切れ味が悪いため一撃では仕留め切れなかったが、頭部から血が噴き出す。頭を押さえて踏鞴を踏む怪物。
正吾はスキル【爆炎操作】を使い剣に炎を灯す。相手が怯んでいる隙に、足を斬りつけ爆発させ、肩を斬りつけ爆発させた。
体が頑強なため、致命傷を負わせることはできていないが、それでもオークは苦悶の表情を浮かべている。
そうとう痛いはずだ。オークは歯を食いしばり、斧を振り下ろしてきた。
正吾も応戦するため、剣を切り上げる。
二つの武器が衝突した時、剣に灯っていた炎が弾け、爆発して斧を吹っ飛ばす。
オークの手から離れた斧は、クルクルと回転して地面に刺さった。その光景を見ていたオークの仲間たちは、一様に青ざめた顔をしている。
まさか自分たちのボスが、ここまで押されるとは思ってなかったんだろう。
「さあ、決着をつけようぜ。後ろのオークも全部倒さなきゃいけねえからな」
「調子に乗るな! 人間風情が!!」
大柄のオークは素手で向かってきた。よほど腕力に自信があるようだ。
――こっちも素手の戦いに応じてやってもいいが……人間風情といった野郎に、手加減する気はない!
正吾も走り出し、剣を引いた。相手のガラ空きとなった胴に一撃を入れる。炎を灯していたため、脇腹が爆発する。
さらに正吾は剣を斬り上げ、相手の左手に当てた。爆発して指が飛んでいく。
正吾は一回転し、遠心力をつけて剣を薙いだ。
オークの右膝に当たり、爆発。手応えで折れた感触があった。オークはふらつき、倒れそうになる。
そこで間髪入れず、相手の
顔が跳ね上がり、一歩、二歩と後ろに下がるオーク。正吾は止めとばかりに相手に突っ込む。
剣先をオークの腹に突き立てた。
「どりゃあああっ!!」
力を込めると、剣はオークの体を貫通する。刀身の炎が燃え上がり、体内で爆発した。オークは白目になるも、まだ倒れない。
正吾は柄から手を離し、ドロップキックを相手の胸に叩き込む。
これにはさすがに耐えられず、オークは後ろに倒れた。正吾はオークに歩み寄り、刺さっている剣を引き抜く。もうピクリとも動かない。
どうやら死んでいるようだ。正吾は剣を肩に乗せ、騎馬に乗ったオークを見渡す。
「あとはお前らだけだな。全員、相手になってやるよ」
◇◇◇
エリゼの力も借り、十体近くいた騎乗のオークたちを全員倒した。
少し時間はかかったものの、大柄のオークと比べれば大した強さではない。正吾は剣を置き、大柄のオークの前でしゃがみ込んだ。
「こいつなら持ってるんじゃないか? 例のメダル」
「はい、このオークは相当強かったですから、充分考えられます」
正吾は倒れているオークの皮鎧や服をまさぐってみる。すると、腰のベルトに小袋が
その小袋を外し、中を確認する。
「お! これじゃないか、メダルって?」
袋の中から出てきたのは銀色のメダル。表面には顔のような刻印が入っている。
「三枚ありますね。だとしたら、このオークはかなり上位の魔族だったんだと思います」
「え? そうなのか?」
「はい、魔族の中で地位が高いほど持っているメダルの数は多いと言われています。私が前に見た魔族は、このメダルを一枚しか持っていませんでした」
「へえ、じゃあ、こいつはそこそこ強いほうってことか」
確かに【竜気解放】がなければ苦戦していたかもしれない。あれで下位と言われたら、さすがにへこんでいただろう。
「まあ、なんにせよ。三枚あるならガチャを三回引けるな。さっそく試そうぜ」
正吾は大岩の側に置いたガチャBOXの元に行く。しゃがんで投入口にメダルを入れると、すんなりと入った。
「やっぱり、このメダルで当たりだな!」
つまみを三度回すと、ガコンッとカプセルが落ちてきた。受け口から取り出して目の前に持ってくる。
大きさは前の物と同じくらい。上半分が半透明で、下半分が銀色だ。
カプセルの一部には、『SR』の表記がある。
「スーパーレアか……まあ、開けても問題ないだろう」
正吾はさらに二回ガチャを回し、全部で三つのカプセルを出した。全て『SR』のカプセル。以前より、レアリティが高いものが出てきている。
出せば出すほど、レアリティが上がるのだろうか?
取りあえず開けようと思ったが、エリゼが懸念を示す。
「正吾様、オークの群れはまだいると思います。騎乗していない歩兵の部隊がいてもおかしくありません。ここは一旦、離れたほうがいいかと」
「そうだな。確かに、あとからやってくるヤツらがいるかもしれねえ」
二人は少し離れた場所まで移動することにした。五キロほど離れた森に入り、追っ手がないことを確認してからリュックを下ろす。
「ここでいいだろ。カプセルを開けるから、エリゼは離れててくれ」
「分かりました。気をつけてくださいね」
エリゼが下がったのを確かめてから、正吾はカプセルを開けた。黒い玉が地面に転がり、黒い煙を上げる。
目の前に現れたのは40センチほどの小さなモンスター。
久しぶりに見たな。と思い、正吾は剣の柄を強く握りしめる。
足元に落ちた紙に視線を落とした。
『スーパーレア アイアンゴーレム』
剣に炎を纏わせ、何度も斬りかかる。だが、ゴーレムの硬い体は剣を弾き、爆発しても微動だにしない。
「今までで一番硬えな!」
蹴り飛ばしたりもしたが、やはりダメージを受けている様子がない。このままでは剣が折れると思った正吾は、打撃・斬撃で倒すことを諦める。
「どうするんですか? 正吾様」
心配そうに聞いてくるエリゼを
「すげえ力だな。でも、俺もパワーでは負けねえぞ!」
正吾は膝を地面につき、力づくでゴーレムを押さえ込む。しかし、完全に押さえることはできない。
力勝負では分が悪かった。それでも――と正吾は考える。
――こいつがアイアンゴーレムってんなら、このスキルが効くはずだ!
正吾は【雷撃操作】のスキルを使い、ゴーレムの体に雷流を流し込む。
すぐに効果は現れた。ゴーレムはブルブルと痙攣し、動きを完全に止める。正吾はさらに魔力を上げ、雷流を送り込む。
アイアンゴーレムは全身から煙を出し、最後は力なく後ろに倒れた。そのまま煙を上げ続け、消えてしまった。
「よし、手応えはねえけど、取りあえず倒せた」
正吾が立ち上がって腰を伸ばすと、少し離れた場所から軽快な音が聞こえてくる。
ガチャBOXがレベルアップを告げていた。
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