タケル様と鬼退治
Akila
留守護代行編
第1話 タケル様
ふふふ~ん。私は夕飯の支度をしながら鼻歌を歌っている。今日はお爺ちゃんのリクエストに答えてコロッケだ。
「お爺ちゃん、何してるんだろう? 今日はもう
一時間ほど前からお爺ちゃんは神社の方で何かしている。
私が今いるここは神社の裏手にある一軒家だ。そう、私の生家は代々続く地元の小さな神社で、両親は私が赤ちゃんの頃に事故で亡くなったそう。昨年までは亡くなったお婆ちゃんがいたけど、今はお爺ちゃんと二人で暮らしている。
ド~ン!!!
いきなり神社の方向から爆音が聞こえた。
「何? 何? 地震じゃ無いよね。揺れてないし。てか、お爺ちゃん!」
部屋着にエプロン、スリッパで急いで神社へ駆けつけると、拝殿の前でお爺ちゃんが腰を抜かして後退りしていた。
ん? 手に何か持ってる? てか、あの黒いモヤは何? めっちゃ、振り払ってるんだけど… 構図がわからん。
「お、お爺ちゃん?」
遠くから恐る恐るお爺ちゃんに声をかけた。
「おお!
えぇ? 危ないって、何が? まさかその黒いモヤって火事とか?
「お爺ちゃん! 火事なの? 私、水撒きのシャワー持ってくるよ」
水撒きシャワーごときで火事がどうにもならないのに、オロオロてる私は水栓へと急ぐ。
「あほ! 火事じゃ無い! これは… お、お前、見えるのか?」
「うん。黒いモヤでしょ? 火事の煙じゃ無いなら何なの?」
立ち止まって、もう一度、黒いモヤを見てみると確かに火事じゃ無いかも。だって、黒いモヤは空へと登って行かず、一定の場所に浮かんでいた。
「そうか… じゃぁ、なんか武器を持って来い! 何でもええ」
武器って。お爺ちゃん。そんな物騒なもん、そうそうその辺に無いよ。
「武器って… 」
周りを見渡すと、お爺ちゃんの趣味のゲートボールのスティックが目に入った。
「お爺ちゃん、こんなんしか無いよ。これでいい?」
と、お爺ちゃんに駆け寄り手渡そうとした瞬間
「建美! 背中を儂に向けろ」
すごい剣幕のお爺ちゃんにびっくりした私は、言われるがまま背を向けた。
「
お爺ちゃんが謎の言葉を発すると、私の背中が熱くなった。そして、ふわっと身体全体が光りキラキラと輝きだす。
「わ~。きれい」
と、前を見たら、目の前に煙をまとった鬼が現れた。
「ひぇっ!!!」
何これ! 何これ! めっちゃ怖いんですけど。角とか!
「建美、お前がこの
はぁぁぁぁぁぁぁ? いきなりそんなん言われても、出来るわけないじゃん!
「な、何言ってるの? 依代って! ボケたの?」
涙目でお爺ちゃんに訴えていると、鬼? が手を振り下ろして来た。
ガン!
お爺ちゃんがとっさに手に持っていた刀で盾になってくれる。
「建美、ワシは足をやられて立てん。そのスティックでこいつを殴れ!」
え~~~! 無理ゲー。ヤバイのに巻き込まれたよ! どうすんの! これ!
小刻みに震えながら、もう一度鬼を見る。お爺ちゃんに攻撃を塞がれてちょっとイラついてる? かな? じゃない! どうしよう。
殴るって。よし、一か八か。
「とりゃ~」
と、屁っ放り腰だけど、お爺ちゃんが刀で押さえている鬼の腕を思いっきり叩いた。すると、鬼の手がジュワ~っと水蒸気の様に霧散した。おっ! 行けるんじゃない? ちょっとニヤッとしたのもつかの間、すぐに鬼は反撃して来た。
「ヤバッ」
『何とも、心もとないのう。力が出し切れておらんな。どれ、建美。今から言う言葉を口にせい』
と、どこからか声が聞こえて来た。
ん? ん? 私はパニックだ。
周りを見渡すけど、声を発しているそれらしき人物は居ない。
『いいから復唱するんじゃ。略式じゃが… 大丈夫だろう。行くぞ… 』
「か、
この
『う~ん。まぁ、良いじゃろう。最初はこんなもんか… 』
途端に、私が持っているスティックが光り出し、声がダイレクトに私の頭の中に入って来た。
『建美、行くぞ』
え~! どこによ! まさか、この鬼に!
って、状況的にそうだよね… あかん、死んだよこれ。
否を言わせず、私の身体は勝手に動き出す。身体が軽い。シュッと鬼と対峙してその場でジャンプした。
おぉ~! 軽く二メートルは飛んでるよ。凄い。てか、怖い。
『そりゃぁぁぁ』
スティックを振り上げ鬼の額にクリーンヒット。あっけなく一発で鬼は霧散して跡形なく消えた。
ふ~。って、案外あっさりなんだね。でもよかった。これ以上は心臓が持たなかったよ。
『建美、良くやった』
と、頭の声は褒めてくれる。
「建美、初めてなのに良くやった。さすが儂の孫だ。タケル様もありがとうございます」
お爺ちゃんは座りながらも私に頭を下げる。
「い、嫌だな~頭なんか下げて。お、お爺ちゃん。もう勘弁してよね。てか、あれって… まぁ、後で話を聞くとして。今は心臓がヤバイんだよね。張ちきれそうぅぅぅ」
私はドクドクと脈打つ心臓を抑えながら、その場に座り込んでしまった。と、ふと、横に誰かが居るのに気がつく。
ニコッと笑う小さな男の子。釣られてニコッと返すと
「何じゃ。腰が抜けたのか。若いのに… 鍛錬が足りんぞ」
この綺麗な顔の男の子は顔と言葉が一致しないんだけど、誰?
「あの~、僕は誰かな?」
「はぁ。この状況でわからんか? 我はヤマトのタケル。さっきお前と共に戦った者だ」
「タケル様。建美にはまだ『御勤め』の事は話しておりません。申し訳ございません。これから説明しようと思いますので、今はどうか… 」
「あぁ。そうか… よし! では、我も母屋へ行こう。何、もう建美も視えるようになったんじゃし。良いな?」
「はぁ…」
私はポカンと二人の会話を聞いていた。も~、何が何だか。
「建美、肩を貸してくれ。足が動かん。これは折れたかも知れん」
お爺ちゃんにそう言われたので、急いでお爺ちゃんを介助する。私はコソッとお爺ちゃんに耳打ちした。
「お、お爺ちゃん。この男の子は、まさかだけど、あの有名な神様のタケルって事でOK?」
「…あぁ」
私達はそれ以上何も言わず、三人で母屋へと帰って行った。
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