第32話
などと言ってもやはり道通様がどこに現れるのか。などということはイツには分からなかった。ただし全く手かがりがないわけではない。
イツは自宅のパソコンを広げる。そして真っ黒の画面。都市伝説掲示板と書かれているサイトに入る。そこには奇妙な噂が書いてあった。
道通様と呼ばれる妖怪がこの街に現れていると。
内容はこうだ。この街で喧嘩や万引きなどを悪事を働くと後ろからフードを被った少女が現れ、そしてそのまま止めれると。
それに対して、俺もあったことがあるなどと言うコメントが無数寄せられている。
これだけの目撃証言があるのだから。ほぼほぼ、この街に道通様がいるのだろう。
そしてこの道通様……実は知っている。恐らく、水神様であるかもしれない。そしてこの雨を降らしている犯人。それがこの道通様である可能性が高い。
しかしそうなると、疑問が湧いてくる。
一体どうして。なんのために、道通様はその日に雨を降らせる。確かに、雨を降らすと言う行為は必要なことである。雨が降らなければ農作物は成長をしないから。しかし、それにしても。どうしてわざわざ花火大会がある時に雨を降らすのだろうと考える。
ともあれ、それをあれやこれやと考えても何も始まらない。直接本人にそれを聞けばよい。だからまずは道通様を発見することが先手なのだが。
「いない……」
イツは机に付した。あいからずイツの部屋はペットボトルに埋もれている。その中央に、机がありパソコンがある。その周辺だけゴミなど置かれていない。
「どうしたんだい。お嬢、そんな深刻な顔をして」
とゲドーはパソコンの上にピョンっと立った。
「いや、ゲドー。道通様は一体どこにいるのかなと思って」
「なんだ。そんなことか」
「なんだ、そんなことって」
「別に道通様の好きにさせればいいだろ。お嬢がそんな頑張る必要ねーよ。雨が降る時は降るんだしさ。それが偶々、花火大会の時が多い。それだけなんだろ」
「そうだけどさ」
「それに花火大会中止になった方が、ヨルお嬢さんとか喜ぶだろ。花火大会が開かれると空瀬神社も騒がしくなるだろ。屋台とかたくさん出て。第一、どうして花火大会ってこんな暑い夏に行われるんだよ」
「それは色々な理由があるの。例えば、花火。夏の方が湿度が高い。天候も安定する。それに比べて冬は空気が乾燥しているの。だから、花火がどうしても夏の方が綺麗に見えるの。また冬とかは落ち葉が転がっていることが多いから、うっかりそれが燃え移ってしまったら火事の原因になる危険性もある。だから花火は夏行うのが恒例なの。他にも花火って元々は鎮魂の要素がある。だからお盆が近づくこの時。死者の魂が安心してこの世界に帰ってこれるように。そうするために、花火を狼煙代わりに上げる。それが元々の花火の由来」
「ふーん。まぁ、どんな理由があるにしても。花火は無くなった方が俺たちからしたらいいだろう」
「まぁね。そっちの方が街が静かになるし。だけれどもね」
そっと瞼を閉じる。そこには必死に訴えるハレの姿があった。その彼女のことを思うと、何とかしてやりたい。そう考える。
「折角、神様として生まれたのだからさ。1人ぐらいの願いは叶えてあげたいと思うでしょ」
「差別は良くないぞ。お嬢」
「うん。分かっている。だけれども、これだけは許して欲しいな」
「もっとも。雨を降らせるのかどうかを決めるのは雨神様の気分次第だけどな」
「そうだね」
そしてイツはため息を吐いた。
「どこにいるんだろう。道通様」
「そんなもの、実際に町の外に出ればいいだろ。お嬢」
「いやよ」
「なぜ」
「元来、私は人間嫌いなのよ。どうしてそんな私が夜の街に行かないといけないの?」
「まぁ、それもそうか」
「うん。あんな危険な場所、行きたくない」
「まぁ……確かに」
「と言うわけで道通様。どこにもいなかった。以上。今日は寝るとするよ」
とパソコンを閉じたその時。
携帯の着信が鳴る。壁にかけられている時計を見る。時刻は深夜3時。普通の人であれば寝ている頃合いである。そしてこんな時間に電話をすることなどないはずである。
その着信画面にはヨルという文字。
「こりゃ、ヨルお嬢から電話だぜ。一体何があったのか」
「ううん。ねぇ、何かあったんだろうね」
「お嬢。電話をとらないのか」
「うん。だって嫌な予感しかしないもの」
そしてしばらくして、電話は鳴り止んだ。と思ったらまたしばらくして、鳴る。
イツは長いため息を吐いた。これは電話を取らない限り鳴り続ける。そう思った彼女は渋々、その電話に出た。
そして
「イツ、大変何だ!」
と慌てているヨルの声が聞こえた。
「どうしたのですか。ヨルさん。賽銭泥棒にでもあったのですか」
「いや違う! そんなんじゃないんだ! 美鶴が行方不明なんだ!」
「はぁ」
その後、電話越しでその状況を聞いた。
ヨルが目覚めて、お使いをお願いした。近くのコンビニは徒歩5分。往復をしても10分ぐらいで帰ってこれる。それなのに1時間経っても帰ってくる気配というものが全くない。
「だからこれはきっとあれだ。美鶴のやつ、僕の1000円を手に持って豪遊しているに違いない」
「はぁ、こんな時間に。1000円持って」
そんなことできるはずがない。開いている店だって限られているだろうに。とそんなことを思った。
「だからお願いだ。美鶴を探してくれ。そして僕に美味しいお菓子を届けてくれ」
「はぁ」
そう言って、電話は一方的に切られた。
すぐに部屋の中は静寂に包まれる。
イツは近くにあった、羽織を羽織る。
「……どうするんだ。イツお嬢」
「どうするんだって。そりゃ」
探しに行くしかないでしょ。そうイツはいった。
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