仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い

縁日 夕

0.プロローグ

 眼前に迫る巨大な影。


 頭の位置が優に5メートルは超えるであろうそいつは、ふたつの首を持つ巨大な蛇だった。上体を起こしただけでこれだ、もはや全長がどうであるかは想像もつかない。他の魔物と一線を画すそいつはただの魔物ではなく、この迷宮ダンジョンにおいて稀に出現する特異個体ユニークモンスターだ。


 そいつはこちらを認識するや否や、その巨体に似合わぬスピードで襲い掛かってくる。俺は剣を片手に迎撃の構えをとっているが、普通に考えればこのサイズ相手にまともに受け止めてはひとたまりもないだろう。


 だが双頭の蛇は俺のことを吹き飛ばすことは叶わず、むしろ逆にその巨躯を大きく弾かれていた。俺がその剣で弾いたから——ではない。


 俺と蛇の間は光の壁によって遮られていた。


 蛇はそれに阻まれたというわけだ。


 壁を打ち破らんと、体当たりを繰り返す蛇。しかし壁の強度は尋常ではなく、一向に壊れる気配はない。


 なおも壁と格闘する蛇に無数の矢が降り注ぎ、そいつは苦し気にその身を捩った。


 そんな蛇に追い打ちをかけるように、更なる不幸が襲い掛かる。


 特大の火球が飛来し、その身を容赦なく焼き尽くしたのだ。


 双頭の蛇はそれらの技になすすべなく斃れる。


 剣士として前衛を務める俺は何もすることがないままに戦闘は終了した。


「いっちょ上がりっすね!」


「他愛もなかったわね」


「皆さんお怪我はありませんか?」


 虚しい気持ちを胸に蛇の亡骸を見つめる俺のもとに3人の人影が近寄ってくる。


 彼らは俺とパーティーを組む仲間であり、今しがたこの蛇の攻撃を防ぎ、倒した張本人達である。


「アデムさん、どうしたんですか? もしかしてどこか怪我を……?」


「……いや、おかげで無傷だ。ありがとう」


 無言の俺を心配して声をかけてきたのは、先ほど光の壁を操っていたホムラ。やや幼げな顔立ちに、小柄な体躯の愛らしい女の子だ。


 ホムラは俺が無傷だと知ると、安心したように微笑んだ。


「あ、でもそこちょっと擦りむいてますね」


「ん? あぁ、気づかないうちにどこかにぶつけてたかな」


「任せてください!」


「え?」


「【アークヒール】!」


 ホムラはおもむろに僧侶の最上級治癒魔法をかけてきた。


「えっ……」


「これで治りました!」


 満面の笑みが眩しいが、やっていることは正気の沙汰ではない。【アークヒール】なんて使えるやつはそうそう居ない上に、一回の行使でも相当の消耗がある魔法だ。間違ってもちょっとした擦り傷なんぞに使っていい魔法ではない。


「……あ、ありがとう……?」


 ずい、と寄せられた頭をつい反射的に撫でながら礼を言うと、ホムラはますます相好を崩した。


「ホムラは心配性よね。こんな雑魚じゃアデムさんに傷なんて負わせられないわよ」


 何を根拠にしているのか、そんなことを言うのは弓を携えたスレンダーな女性だった。彼女の名はエルシャ。パーティーで狩人を務め、蛇をハリネズミのようにしたのは彼女だ。


「あの程度じゃアデムさんが相手するまでもないって感じっす」


 最後に、やや軽薄さを感じさせる口調の彼は、火球で蛇にとどめを刺した魔術師のゲルド。

 

 俺が相手するまでもないっていうか、多分俺が一番相応しい相手だったと思われる。


 俺は分不相応な相手に消し炭にされてしまった蛇の亡骸を再度見やり、内心で合掌した。


「とにかく先に進みましょう。この様子ならこの先もたかが知れているけれど」


「行くっす!」


「はい!」


「……」



 俺、アデム・アルデモルトは冒険者だ。

 

 そんな俺には今、悩みがある。



 パーティーメンバーが強すぎて、俺のやることがねえ!!

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