紅葉彩る霞之月荘

只乃 しの

永命に生きる化け物の独白

エンディングはとうの昔に迎えている。

 遠い昔。いや、言葉にするには遠すぎる程に過去の話だが、俺は身元も知らない誰かのせいで、大切な人を失った。

 

 そして俺は――死にゆく大切な人を見ることもせず、根を張った殺意に憑りつかれ、人の道から足を踏み外してしまった。

 

 大切だった人は、最期に何を見て何を思ったのだろうか。自分に見向きもせずに殺意に満ちた目をした友人に何を思ったのだろうか。

 

 大切な人を失った男の復讐劇は、瞬き程の時間で終わった。物語にすらならないほど、あっさりと。

 

 そして、ただの少年は化け物に成り下がり、怒りのまま、殺意のまま、幾百、幾千と数多くの命を屠っていった。


 幾度も夢に見た。もしものことを。もしも助けられたのなら、もしも死ぬのが自分だったのなら、もしも殺意に呑み込まれず彼女の為に行動できたのなら。そんな夢を見ても現実は何も変わらない。


 溢れ出る後悔に耐えられなくなった俺は、その世界から逃げだした。ある時は魔法が満ち溢れた世界を、ある時は荒廃した世界を、死に場所を求めて彷徨っていた。


 だがこれは、ただのプロローグ。俺の物語はここから幕を開けた。


 或る時、どこの世界だったか、ある人に拾われ、そこでふたつ、楔を刺された。

 ひとつは、生きろということ。もうひとつは、大切な人を忘れるな。ということ。

 優しく、そしてしっかりとに刺されたそれは、朽ちることなく十字架となり、俺を生へと繋ぎ留めてくる。

 

 それからも無数の出会いを重ね、成長を重ね、その度に十字架は増えていき、もはや重荷となったそれを背負うことを強要されていった。


 だが、その十字架を下ろす時がきた。


 俺は、世界を造り変えた。


 過去に戻り、俺が化け物になった原因の殺人犯を殺した。


 過去の俺と、かつて大切だった人の、歩めるはずだった物語を見届けた。


 ――そして、俺は、何者でもなくなった。


 こうして数万年と長く続いた物語はエンディングを迎えた。俺に残ったのは、数々の十字架に残された跡と、罪だけだ。


 居場所はもとより、送りたいとずっと願っていた未来は過去の自分に譲ってやった。血と罪に塗れた化け物が望むにはその未来は儚く、綺麗過ぎた。


 俺は、これから紡がれていくであろう未来に別れを告げ、新たな世界に渡った。


 渡った世界は、人が中心にいない世界だった。


 渡りついて数百年と少し、人が活発になった頃に、俺はある人との約束を叶えてみることにした。


 誰もが住める場所を作り上げる、叶わぬまま天に昇ってしまったその人に託された約束。自分にその資格はないと思っていたそれを。


 ――霞之月荘。


 今はそう名を変えた、俺の罪をしまい込み、誰かの想いを助ける場所。ほら、今日も誰かの想いこころが助けを求めている。

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