第57話 ばけもの


「王都の北方で急激に魔力が乱れたので急いできてみれば……」


 呆れたように頭を抱えるレオだった。


 彼は数ある分家の、数いる子供たちの中からリインレイト公爵家の跡取りに選ばれただけあって魔力総量が多く、魔力を視る『目』も優れているのだ。


≪いえ、あれだけの魔力の乱れであれば誰でも分かると思いますが≫


≪今ごろ王都は大混乱じゃないですかね?≫


 アズとフレイルの冷静な突っ込みであった。まぁ、王都に獣人族の軍勢が攻め込んでくるよりはマシじゃない?


≪……この人、意外とアレですね≫


≪アズベインのマスターですからね。アレでも仕方ないですよ≫


 マスターのことをアレアレ言うのはやめてくれません? というかその理屈だとかつての勇者様もアレになってしまうのでは?


 さて。二人のツッコミはともかく。レオは生まれつき魔力に愛されており、今では魔術の研究施設・通称『魔塔』で研究室長というか塔長をやっているはずだ。


 魔塔なんて大業な名前が付いているけれど実質は魔術大学みたいなもので、現役公爵であるレオが塔長をやっているのはかなり異常だったりする。しかも、名前を貸しているだけの名誉職じゃなく、バリバリの研究者として。


 まったく変わり者よね。一体誰に似たのやら。


「義姉上。状況を説明していただいてもよろしいでしょうか?」


 なぜか冷たい目で私を詰問してくるレオ。まるで私がこの事態を引き起こしたかのような物言いだ。


 ここは早急にお姉ちゃんとしての地位と名誉を回復しないと。


 しかし、正直に話してしまうと「獣人族の反乱」という結論に至ってしまうかもしれない。

 もちろん魔導具に操られていたという説明はするけれど、それで納得してくれるかは疑問だし、上層部があえて・・・納得しない可能性はある。獣人族の領土に大義名分を持って攻め込むために。


 いや、今の国王陛下はそこまでしないと思うけど……周りがそのように・・・・・動けば、陛下お一人で止められるとは断言できないのだ。


 というわけで。

 お姉ちゃんとしての名誉回復は後回し。獣人族との戦争回避のために嘘をつくことを選択した私である。


「え~っとね。もうすでに現地の領主代理には報告したのだけど、ここにいる獣人族のお姫様・セナちゃんとリッファ君が山賊に誘拐されていたところを助けたのよ」


「……なぜ山賊から誘拐された子供を保護したり、このような場所にいるのか伺いたいのですが……。それはあとにしましょうか。続きをどうぞ」


 死刑宣告を延期された被告人の気分になるのはなぜかしらね?


「どこまで話したっけ……そうそう。誘拐された子供とそのままお別れするのは気が引けたから獣人族の里まで送ってあげることにしたのよ。そうしたら運悪くセナちゃんたちを探しに集まっていた獣人族さんと鉢合わせちゃってね。なんとか事情を説明しようとしたのだけど、不幸な行き違いがあってバトルに発展しちゃったのよ。ほら、獣人族とは使う言葉が違うし」


 私の完璧な嘘――じゃなくて、事情説明を受けてレオは深く深くため息をついた。


「なるほど……。では、そういうことに・・・・・・・しておきましょう・・・・・・・・か。」


 なんですかその「義姉上は相変わらずですね。縁もゆかりもない獣人族を庇うために嘘までつくとは……。仕方ありません。優秀なる弟である僕は義姉上のお心遣いを察し、そういう風に報告しておきますね」という顔は?


≪いや顔色からそこまで察するのは無理じゃないですか?≫


≪いくら弟相手でも……まぁこの人なら読心術系のスキルを持っていても不思議じゃないですけど≫


 いや不思議ですけど? フレイルは私を何だと思っているのかしら?


≪化け物≫


 魔導具から化け物扱いされてしまった……。なぜだ。



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