第36話 求婚(二度目)


 しばらく魔法の練習をしなければ。


 ずぶ濡れとなった髪やら服やらを風魔法で乾かしながら、そんなことを考える私であった。


 ちなみに風魔法を使ったドライヤーは私の得意技だった。そして、魔力の総量が増えた結果、今までは冷風だけだったのに温風が使えるようになっていた。この点だけはアズに感謝してもいいかもしれない。


 いやこれまでの減点が酷すぎて、感謝なんて一瞬で塗りつぶされてしまうのだけれどね。


 ともかく。

 私とミアは濡れた髪やら服やらを乾かし終わり……改めて、襲いかかってきた獣人さんに向き直った。


 ちなみにこの獣人さん。私たちが乾かし終わるまで正座で待機していた。獣人にも正座という文化はあるかい、とか。まるで『待て』をしている犬のようね、とか。そんなことを考えてしまう私であった。


「ガルンド族の族長、ガース・ガルンドだ。……いや、ガルンドです」


 なんかメッチャ畏まられている。まるで借りてきた猫ならぬ犬のよう。


 獣人族は血筋よりも強さこそを重視すると聞くし、その理屈だとガルドさんを倒した私は兄貴分――いや、姉貴分みたいな感じになるのかしらね?


 さすがに獣人の生態や文化に関する知識はそんなにないのよね。他国との交渉なら王妃が出張ることもあるけれど、獣人族との交渉は専門の外交官というか領事に任せる形だし。


「えーっと、はじめまして。リリーナ・リインレイトです」


 私がそう挨拶をすると、


「……リリーナ。素晴らしい名前だ。美しさの中にも勇猛さが隠れ潜んでいる」


「あ、はぁ?」


 リリーナという名前のどこに勇猛さが? いや獣人族とは文化が違うし、そんなものなのかしら……なぁんて考えていると、


「リリーナ! お前の強さは素晴らしい!」


 急に立ち上がったガースさんが、熱の篭もった声で語り始めた。


「獣人族の分厚い皮膚を貫く魔法!」


 雷魔法なのだから皮膚の厚さは関係ないのでは?


「詠唱無しの魔力行使!」


 いやしていましたよ? 短縮詠唱だけど『雷よ、我が敵を討てトニトルス』って。遠くにいたから聞こえなかったのかしら?


「さらには、味方への被害すらもかまわず敵を排除する覚悟!」


 事故です。


 いくら私でもそこまで鬼畜じゃないわ。


「俺はお前ほど素晴らしく、美しい女性に会ったことはない!」


 獣人の女性すべてを敵に回しかねない発言ね?


「あ、はぁ、ありがとうございます?」


 ちょっとドン引きしながらも一応感謝の言葉を述べる私。ガースさんはそんな私の手を掴み――



「――気に入った! リリーナ! 俺の嫁になれ!」



 …………。


 ………………。


 ……………………。


 おぉん?


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