第32話 共闘
夜のとばりが降りた頃。
リリーナは(魔力の消耗もあって)熟睡中。
誘拐された獣人の子供たちも、最初の警戒が嘘のようにリリーナに懐き、今ではリリーナの両側で寝息を立てている。
最初はリリーナが安全のために結界を展開しながら眠ろうとしたのだが、魔力の回復を優先させることになった。……つまり、今洞窟の出入り口には警報の魔術くらいしか施されていない。
もちろんミアの護衛騎士や伯爵家の騎士たちが交替で見張りに立っているのだが――
「――あら、」
ぬくっと起き上がったミアがそんな声を上げ、
≪気づきましたか。さすが、中々の腕前で≫
メイド姿の聖剣・アズが素直に褒め称えた。いや、彼女の口ぶりだとどこか皮肉めいて聞こえてしまうのだが。
ともかく、今重要なのは洞窟の外から感じられる『殺気』である。
「山賊の残党でしょうか?」
≪……探知完了。山賊にしてはレベルが高すぎますね。おそらくは別勢力でしょう≫
「…………」
寝息を立てるリリーナと獣人の子供たちをちらりと見るミア。
「疲れて眠っているのですから、起こすわけにはいきませんわよね」
リリーナは魔力の消耗で。子供たちは誘拐されていたことによる体力精神力の消耗が原因で。泥のように眠っている三人を、夜中にたたき起こすのは気が引ける。
当然のようにミアが立ち上がり、彼女の心意気に感応したようにアズが聖剣の姿となる。
≪何という心意気。ここは私も協力いたしましょう≫
リリーナが消耗した原因のほとんどはアズなのだが。悪気など微塵も感じさせない口調のアズであった。
「……ならば、しばしの共闘と参りましょう」
聖剣アズベインを手にするミア。
もちろん彼女愛用の剣は別に存在するし、初めて使う剣は重量のバランスなど色々と勝手が違うだろう。実戦でいきなり使用するのは危険すぎる。
しかし、一剣士として、建国神話に謳われる聖剣アズベインを振るう機会を逃せるわけがなかった。
そしてなにより、
こうして。
特に契約を結んだわけでもない剣士と聖剣は洞窟の外へと一歩踏み出した。
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