第12話 シャペロン


「……なるほど。報復は自分の手で行いたいと? さすがはお姉様ですわ」


 なんか変な勘違いをされているけれど。思いとどまってくれたから別にいいか。


「では、お姉様はこれからいかがなされるのです?」


「とりあえずお父様から陛下への手紙を預かったから王都に向かう予定よ」


「その後は? リインレイト公爵家ご実家に戻られるのですか?」


 な、なんだかグイグイ来るわね? そんなに気になるのかしら?


「どうしましょうかねぇ……。今さら義弟に迷惑を掛けるのも何だし、一生遊べるだけの遺産はもらえたから一人静かに余生を過ごしてもいいんだけど」


「……余生って。20歳で余生って……」


 痛そうに頭を手で押さえるミアだった。なぜだかミアに呆れられてしまった。あのミアに呆れられてしまった。


 と、馬車の中だというのにミアが勢いよく立ち上がった。


「お姉様ほどの逸材を放っておくなど、大陸――いえ! 人類にとっての損失ですわ!」


 大げさすぎじゃない? というかそんな人類の損失追放をやらかした人間を二人ほど知っているわよ?


「お姉様の偉大さを理解できない愚か者の話など、どうでもいいのです!」


 バッサリと切り捨てられる(元)王太子と次期公爵であった。ざまぁ。


「……あ! そうですわ! お姉様、わたくしのデビュタントの際に『シャペロン』を務めていただけませんか!?」


「え? シャペロン?」


 シャペロンとは前世で言うところの介添人であり、デビュタントを迎えたばかりの若い貴族令嬢に付き従い、『この人は○○家の○○様ですよ』とか教えたり、『それはちょっと不作法ですね』と注意したり、『今です! 声をかけてもらえるようアピールするのです!』と恋の助言をしたりするのだ。


「いやいやシャペロンって。なんで私? そういうのは既婚者で、貴族社会のルールに精通していて、貴族の名前に詳しい人がやるものでしょう?」


「まさしくお姉様ではないですか」


 …………。


 あー確かに私ってば既婚者で、元王太子の婚約者だから貴族社会の知識豊富だわ。なんということ。シャペロンは普通なら子育てが終わって暇になったご婦人がやるものだというのに……。20歳でシャペロンになるよう要求されるとは……。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る