第5話:ネイリスト、初めての修行!
初めての弟子としての修行の日が訪れた。……その内容は想像以上に過酷だった。
「まずは魔法の基本から始める。魔法を使うためには精神と肉体の両方が強くなければならない。まずは体力作りだ。」
セシルさんは私を森の中に連れて行き、ストレッチやランニングを始めた。
普段からデスクワークのみで運動とは無縁だった私には、これが非常に過酷だった。
「ふんぬううう……!!」
「体が硬いな……もっと腕を伸ばせ!」
(ただのストレッチがこんなにきついなんて……でも、負けない。ここで諦めたら、この世界で生き残れないんだから!)
ゴキッ
「ひぃっ!?今ゴキって!なんか鳴っちゃいけない音がゴキって!!」
「安心しろ、回復魔法もある。何かあれば治療してやる。次だ!」
(セシルさんなぜこんなに厳しいんだろう……。でも、ここで諦めたら、この世界で生き残れない。私は強くならなきゃいけないんだ……。)
セシルの表情は厳しいが、その瞳には深い悲しみが一瞬だけよぎる。
それはアリスには見えないが、セシルの過去の痛みが垣間見える瞬間だった。
次の修行では森の中を走らされた。
地形が不安定で、走るのに苦労した。湿った土、木の根が絡まり、足を取られそうになる。
「アリス、遅いぞ!」
キュイン!
「ひぃッ!?」
走る速度が遅くなると光魔法が飛んでくる。休む暇はなかった。
こんなハイペースで走っていたら心臓がもたない……!!だけどセシルさんは休ませてくれる様子はなかった。
(なぜこんなに……でも、これは自分のためなんだ!生き残るには体力をつけないと!)
セシルさんの修行は厳しいけれど、その目には深い思いやりが宿っていた。
彼女の厳しさの裏には、私が強くなることを望む気持ちが感じられた。
セシルはアリスの背中を見つめながら、かつての弟子たちの顔を思い浮かべていた。その思いが、アリスに対する厳しさに変わっていた。
(アリス、人間で女である貧弱なお前が生き延びるには相応の力をつけなければならない。だからこそ、この修行に耐えて強くなれ。)
「ほら、休むな!相手が魔物なら待ってはくれないぞ!!」
キュィン!
「ひぃぃぃ!!!」
容赦無く光の矢が飛んでくる。
私は頭を守る様にして抱えながら全力で森の中を駆け抜けた。
散々森の中を走らされた後は次の修行場所へと移動した。
森の中は薄暗く、木々が天高くそびえ、枝葉が風に揺れてささやく。鳥のさえずりが遠くから聞こえ、湿った土の匂いが漂っていた。地面は苔で覆われ、足元が滑りやすい。
「次は瞑想の訓練だ。心を静かに保ち、自分の内なる魔力を感じ取るんだ。」
「はい、先生!」
地面に座り、周囲の自然を感じながら深呼吸を繰り返す。背筋を伸ばし、心を静かにする。
「自分の体内を流れる魔力を感じ取れ。それが魔力の流れを掴む第一歩だ。」
(静かに……集中して……)
私はセシルさんの言葉に従い、体内を流れる魔力を感じ取ろうと試みたが、初めは何も感じなかった。
「……先生、何も感じません……。」
「焦るな。瞑想は時間がかかる。自然と一体になれ。」
セシルはアリスの成長を見守りながら、自分の心の中で過去の弟子たちの声を聞いていた。
彼らの失敗を思い出し、アリスが自らを守るための力を着ける為全力を尽くす決意を固めていた。
(なぜこんなにも厳しいのか、少しだけわかってきた気がする。私を強くするためなんだ。それだけ、魔法の使えない私がこの世界で生きていくことは過酷なんだろう……。セシルさんの気持ちに応えたい。)
再び瞑想に集中した。鳥のさえずり、風のささやき、木々のざわめき。次第に、体内に流れる微かなエネルギーの流れを感じ始めた。
「……何か、感じます……。」
「その感覚を逃さないように。それがあなたの魔力だ。その流れを感じ、コントロールするんだ。」
(この感覚……これが私の魔力なんだ……。)
「いいぞ、その調子だ。魔力の流れを感じ取ることができたら、次はそれをコントロールする訓練を行う。」
「はい、先生。もっと頑張ります!」
(セシルさん、ありがとう。あなたの期待に応えられるように、私、もっと頑張るから)
私はセシルさんの指導のもと、魔力の収束と拡散を繰り返し、魔力を体内で自由に流せるようにするための訓練を続けた。
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