第12話
「随分人に会っていないなぁ…」
『にゃああ…』
アパートの自室。
ベッドに寝転がりながら、思わずそんな呟きを漏らした。
ゾンビパニックが始まってもうすぐ3週間が経とうとしていた。
相変わらず食料や使えるアイテムを探し、街を練り歩いていた俺だったが流石に体に疲労が溜まってきたのでここ二、三日はアパートの部屋の中で休んでいた。
にゃあと鳴いて腹の上に乗ってきたミーちゃんを撫でながら、ぼんやりと天井を見つめる。
しっかりと食事を摂り少しずつ重くなってきたミーちゃんの体重を感じながら、俺は自分以外の生存者のことを考えた。
3週間、自分以外の人間と全く出会っていないと流石にちょっとした寂しさを感じてしまう。
社会人時代はあれだけ鬱陶しかった人間関係が、若干だが恋しくなり始めている。
人間は一人では生きていけない生き物なのだろうか。
俺にはミーちゃんがいるからかなり孤独感は紛らわせることが出来ているが、それでも誰か他の人間と話したいという欲求は依然としてあった。
「生存者探しでもしてみるか…」
これまではどちらかというと避けてきた俺以外の生存者を初めて探してみようという気になった。
もうすでに十分な食料確保は終えているし、数日ぐらいは無駄にしても問題はないだろう。
俺以外の生存者を見つければ、食料提供と引き換えに何かいい情報やモノを得られるかも知れない。
「決まりだな。ということでちょっと言ってくるぞ、ミーちゃん」
『にゃああ』
思い立ったが吉日という。
俺は腹の上に乗っていたミーちゃんを床に下ろし、出発の準備を整えた。
金属バットと包丁、スーパーで見つけたコンバットナイフ、それからゾンビ化した警察の腰から拝借した拳銃を装備する。
生存者との接触は、常に襲われる危険を伴う。
こんな世界になってしまったら法も倫理も意味をなさないからだ。
俺にとってゾンビよりも危険なのはむしろ生存者の方だった。
だからいつも以上に武装して身を固める。
「それじゃあ言ってくる」
『にゃああ』
準備が整った俺は、ミーちゃんに挨拶をして家を出る。
ミーちゃんは外の世界が怖いのか、玄関にはあまり近寄ってこようとせず、廊下の奥から一声にゃあとないて俺を見送った。
「夜までには帰ってくるからな」
そう言い残してしっかりと鍵をかけ、階段を降りる。
「さてどこに行こうか…」
アパートを離れた俺は、足の向くままに街を練り歩く。
どこに生存者がいるのか全く見当がつかないからだ。
学校や市役所とかに立てこもっている人間がいるかも知れないとも思ったが、そういう人が集まりそうな場所はむしろゾンビに狙われやすいんじゃないかとも思った。
とりあえず適当にその辺を歩いて人がいそうな場所を探してみようと街中を歩き散らす。
「おっと、いかんいかん…ついここにきてしまった…」
人の習性とは全く恐ろしいものだとおもった。
適当にその辺を歩いていたはずが、俺は気づいたら勤めていた会社がある雑居ビルの前に来ていた。
何百回と歩いた道を自然と選択していたようだった。
外に出たら歩いて会社に出社するという行動が完全に体に刻まれているようだ。
Uターンして引き返そうかと思ったが、ふと思いつく。
「誰かいるかな?」
あり得ないと思いつつもここまでくると会社の中を調べたくなってくる。
俺が勤めていた会社の雑居ビルは、出入り口が少なく、立て篭もるには最適にも見えた。
もしかしたら誰かがこの中に隠れているかも知れない。
俺はダメもとで会社の中を調べてみることにした。
「誰かいますかー?」
入り口の鍵は閉まっていた。
ノックして声をかける。
返事はない。
「えーっと鍵は確か…」
これは近くの駐車場にある警備室を見に行ってみた。
「お、あったあった」
警備室のガラスは割れて血がベッタリとついていた。
手を突っ込んで引き出しを開けると、その中から鍵を入手することができた。
俺はその鍵を使って入り口のドアを開き、中を覗く。
シーン……
ビルの中は薄暗く、静寂に包まれていた。
「誰かいませんか〜」
俺は鍵をポケットにしまい、すぐに逃げられるようにドアは開けっぱなしにしておいて、会社のオフィスがある四階を目指して階段を登っていくのだった。
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