第11話
拾った子猫にはミーちゃんという名前をつけた。
実家で飼っていた三毛猫のあだ名を拝借した形だ。
コンビニでみーちゃんを拾った俺は、そのままアパートの部屋へと連れて帰り、食事と水を与えた。
ミーちゃんは俺によくなつき、立派な家猫となった。
食料が少ない中、ペットはお荷物でしかないのだが、荒廃した世界には癒しが必要だ。
ミーちゃんと触れ合っていると、俺の精神的疲労もかなり緩和されるような気がした。
ミーちゃんを拾った翌日から、俺は更なる食糧を求めて街を練り歩いた。
ミーちゃんは俺と違ってウイルス耐性がないので、お留守番だ。
ゾンビに襲われる心配がない俺は、とにかく町中のコンビニやスーパー、飲食店など食料が残っていそうな場所を片っ端から探した。
街はゾンビ以外はもぬけのからで、ほとんど生存者は残っていないようだった。
おかげで誰にも邪魔されることなく俺は食料探しに専念することができた。
2週間が経つ頃には、歩いていける範囲にあるコンビニやスーパーなどはほとんど探し終わっていた。
多くの店で店頭に並んでいる食料や飲料はほとんどが持ち去られた後だったが、倉庫に置かれている在庫などは手付かずの場合が多かった。
俺はそういうところを重点的に調べ、なるべく日持ちする保存食などをひたすら集めまくった。
その結果、一年ぐらいは食べるのに困らないだろうという量の保存食を手に入れることができた。
汚染されていない水もとあるスーパーの倉庫から大量に見つかり、飲み水も十分な量を確保した。
俺はそれらの食料や飲み水をできる限り自分のアパートの部屋に持ち込み、運べない分は、その場に放置して場所を紙に記録した。
それらの食料の見張りは、俺ではなくゾンビたちがやってくれるはずだ。
「今までのところ順調だなぁ…ゾンビに襲われない特質、便利すぎるだろ…」
食料集めに日々を費やしながら、俺は改めて自らのゾンビに襲われない体質の優位性を実感していた。
もし俺のようにゾンビウイルスを克服し、ゾンビに襲われることなく外で活動できる人間が他にもたくさんいたのなら、こうも簡単に食料は手に入らなかっただろう。
きっとゾンビに襲われないものたち同士で街に残された保存食の奪い合い、殺し合いに発
展していたはずだ。
だが、現状街には俺のように普通に出歩いている生存者は見当たらない。
というか普通の生存者自体全く見かけない。
みんな逃げたか、ゾンビになったか、もしくはどこかに立てこもって助けを待っているのだろう。
「自衛隊とかも一向に助けに来ないし…こりゃ本格的に日本終わったか…」
ちなみにこの2週間の間、自衛隊や政府職員などによる救助活動が行われているのも全く見かけない。
もし政府が正常に機能しているのなら、もうそろそろ何か手が打たれてもいい頃なのだが、自衛隊のヘリも、飛行機も、あるいは偵察ドローンのようなものも全く見かけない。
これは日本が滅んだか、少なくとも政府がもはやまともに機能しないレベルに壊滅しているとみていいだろう。
おそらく今頃ゾンビになってしまっているであろう多くの国民には同情するが、もしかしたらこの状況は俺にとっては都合がいいのかも知れなかった。
もし政府が正常に機能していたとしたら、この街はもう救えないからと核兵器などを使いかねないからだ。
そういう映画を俺は何本もみてきた。
実際、街中にいるゾンビ、蔓延したゾンビウイルスを一斉に浄化するには核兵器が手っ取り早い。
日本は核兵器などは所持していないが、技術的には作れるレベルに達しているというし、政府が正常に機能していれば、他の地域をウイルス汚染から守るためにそのような手段にでないとは言えないのだ。
そして本当に核兵器が使用された場合、俺もミーちゃんもこの街に止まっていたら爆風に巻き込まれて一瞬で蒸発してしまうだろう。
だが、現状そんなことにはなりそうもないので俺はほっとしていた。
「いつか街の外に出るのもありだな…」
現在のところこの街を移動する必要性は感じていないが、運転できる車などが手に入ったら街の外がどうなっているのか確認しに行くのもいいかも知れないとそう思った。
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