俺だけゾンビに襲われない世界で会社時代に虐げてきた上司に思う存分ざまぁする話

taki

第1話


こんな世界なんて崩壊してしまえばいい。


社会に出てからの俺はそんな思想に取り憑かれるようになった。


どうしてそんな妄想をするかというと、それ

は自分の人生が終わってるからだ。


人生順風満帆なやつはそんなこと考えたりしない。


毎日朝7時に出社して夜の11時に家に帰る社畜人生。


性格の終わってる上司に毎日のように怒鳴られ、暴言を吐かれる。


仕事量が多すぎて休日出社しなければ与えられたノルマもこなせない。


精神と肉体を極限まですり減らしてもらえる給料は、フリーターに毛が生えた程度。


いや、残業代が切り捨てられていることを考えると多分時給はバイトよりも全然低い。


夢も希望もないクソみたいな人生だ。


こんな世界、滅んでしまえと毎日のように願っていた。



…そしたら本当に滅びてしまった。


ウボォオオオオオオオ……

グォオオオオオオオオ……


きゃああああああああああああ

うわぁああああああああああああああ


外から聞こえてくるのは獣のような鳴き声と、人々の悲鳴。


あちこちで救急車のサイレンが鳴り響き、時折衝突音や爆発音も聞こえる。



いわゆるゾンビパニックってやつだ。


外ではすでに感染した大勢の人間たちがうろついていて、まだ感染していない生存者を追いかけ回している。


多分このまま人々をゾンビに変えているウイルス?的なやつはどんどん広がっていき、やがては日本を飲みこむだろう。


その先はわからない。


ウイルスは日本の外にも広がるのだろうか、それとも海があるから外国には広がらないのか。


もしくはすでに外国も同じようなゾンビパニックに襲われているとも考えられる。


まぁどっちでもいい。


どのみち日本が滅びることに変わりはない。


感染のスピードからいって、政府は何もできないだろう。


この国は滅びゆく運命なのだ。


ざまあみろと思うと同時に、まさか本当に滅びるとはという、現実感のなさ。


こうなる予兆は1ヶ月前ぐらいからあった。


確か俺が最初に気がついたのはテレビのニュースだった。



『正体不明の病に侵された患者たちを、病院に隔離することを自治体が決定しました。患者たちはまるで薬物中毒者のようにおぼつかない足取りで徘徊し、人を見ると噛みつこうと襲いかかってくるような症状を見せているということです』



休日のワイドショーでそんなニュースが流れた時は、俺は「へー」ぐらいにしか思っていなかった。


ちょうど全世界的なウイルス騒ぎを数年前に経験したばかりだったので、その亜種のウイルスでもまた広まり始めたのかなとかそんなことを考えていた。



だがその日から、正体不明の病の患者たちのニュースがたびたびテレビで流れるようになった。


頻度は段々と増していき、SNSもそのウイルスの話題で一色になった。


1週間前ぐらいには、街のあちこちで定まらない視点でフラフラと歩いている人間を確認できるようになっていた。


その時はまさかそれら全部がゾンビだとは思わなかった。


薬物中毒者か何かなのだろうとおもって素通りしていた。



そして現在。


感染爆発は街を飲み込もうとしていた。


俺がアパートの部屋に立て篭もり始めてすでに三日が経過しようとしていた。


外からは絶えずゾンビの低い声と、人々の悲鳴やサイレンの音が鳴り響いている。


体感だが多分すでに街の人口の半分が感染してしまっていると思う。


生き残っているのは俺のように部屋に篭った人間か、すでに車などで街を出た人間ぐらいだろう。


すでにネットもテレビも繋がらない。


電気は切れて、水道も流れなくなっている。


こうなることを見越して、水は湯船に溜めてあったやつを飲んでいる。


体を洗うなんて贅沢はできない。


冷蔵庫の中のものは腐る前に食べ尽くした。


あとは地震の時などに備えて用意しておいた保存食を食べて食い繋ぐしかない。



「ははは…マジで世界が終わるのか…」


あんなに滅んで欲しかった世界が、本当に滅びかけている。


自分の願望が現実になってしまったわけだが、なんだかちょっと悲しい。


俺は案外この世界を愛していたのか。


まぁ、少なくとも社畜になる前はそれなりに楽しい人生を送っていたわけだし、未練があったのかもしれない。



生まれ育った街はゾンビたちに飲み込まれようとしている。


政府は今どうしているのだろうか。


自衛隊は?


この街は隔離されるのだろうか。


一体このパニックがどういう結末をもたらすのか、見てみたい気もする。


もしかしたら映画みたいに、武装した兵士集

団VSゾンビ軍団みたいな戦いも見られるかもしれない。



でも、多分それは叶わない望みだ。


なぜなら…


「くっそ……子供だからって助けるんじゃなかったぜ…」


俺はジクジクと痛む自分の腕を見る。


そこには、子供に噛まれたような小さな歯形がくっきりと刻まれていた。


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