優美の推理

「ねえ、梨子~。ゲーム理論の課題解けた~?」


 私の数少ない友達である優美が、必修の講義の終わりに話しかけてきた。ゲーム理論の講義は、水曜日にあって、課題の締め切りはその講義の日の前の日だ。


 今日は月曜日だから、そろそろレポートをまとめないとやばい頃である。しかし、私は完全に課題の謎は解けていない。


「まだかな。なんとなく自信が持てなくて……。」

「そうだよねー。なんでいきなり、推理小説を書くなんて課題になったんだろう? ゲーム理論関係ないじゃん。」

「……そ、そうだね~!」


 私は心の中で、絶対私のせいなんだよなあと思いながら、それを言う訳にはいかないので、とりあえず同調しておいた。私は自分の書いた小説を匿名性のネットに公開することは出来たが、関わりのある人間に伝えることは出来なかった。


「でもね、私、もしかしたら、正解見つけちゃったかもしれないのよ!」

「本当に?」

「そう、昨日、クーラーの効いた部屋でアイスを食べながら考えていたら、ビビッとひらめいたのよ。」

「へえ、すごい!」

「でしょ! 一応間違ってるかもしれないから、梨子にも私の推理を聞いて欲しいのよ。」

「いいよ! もしかしたら、その推理をそのまま課題に書いちゃうかもしれないけどいい?」

「もちろん! でも、教えるのは梨子だけだから、梨子も他の人に教えないでね。」

「うん、言わない!」

「OK! じゃあ、課題の推理小説の真相について説明するわね。」


 優美はそう言って、咳払いをした後、推理を始めた。


「まず、この小説の犯人は、ダイイングメッセージに書かれた通り、メイベリよ。」

「でも、メイベリにはアリバイがあるんじゃなかった?」

「そうね。被害者が殺害された昼には、緊急の会議があったから、被害者に直接殺すことは出来なかったでしょうね。直接はね。」

「……その言い方だと、直接じゃない方法ってこと?」


 私は嫌な予感がしたが、優美の話を遮らなかった。


「そう! メイベリは出版社の会議に参加しながら、遠隔で被害者を殺したの。


 重要なポイントは、被害者が執筆机にずっと座って作業していたってこととその執筆机が水浸しになっていたことの2つ。」

「ああ……なるほど。」

 私はこの先にどのような推理が繰り広げられるかなんとなく分かってしまった。


「で、私はクーラーの効いた部屋で、アイスを食べながら思いついたっていったでしょ。


 当たり前だけど、アイスはずっと放置しておけば、溶けるわよね。実際、昨日、私はのんびり棒付きのアイスを食べていたから、棒からアイスが溶け落ちて、床に落ちちゃったの。その後の掃除は大変だったけど、


 その時思いついたの。


 氷を使えば、間接的に被害者にナイフを突き刺すことができることに。


 つまり、執筆机のちょうど上に何かぶら下げるものを作っておいて、そこに、氷とナイフを一体化させたものを吊り下げる。すると、その仕掛けをしかけた後、数時間後に、氷が解けて、被害者の背中を突き刺すの。」

「だからつまり、この先の推理はこうね。」

 私はおそらくこれから繰り広げられるであろう優美の推理を予測して、先に話した。


「メイベリは朝に氷とナイフが一体になったものを執筆机の上に仕掛けて置く。そして、メイベリは出版社に出かけ、アリバイを作る。


 メイベリが会議をしている時、被害者は自分の部屋で執筆を始める。もちろん、被害者は締め切り直前で追い込まれていただろうから、机から離れようとしない。そうすると、大体昼頃には氷が解けてきて、ナイフが執筆中の被害者の背中を突き刺す。


 そして、被害者は周囲に誰もいないことと氷が残っていることから、メイベリが仕掛けた殺人であることに気が付く。だから、被害者は自身の血で、メイベリが犯人であることをダイイングメッセージとして書き残す。


 その後、氷はさらに溶けて、水だけとなり、執筆机を濡らす。そして、同時に、氷の中に、コップを仕込んでおく。


 すると、何者かに後ろからナイフで刺され、その時に、机の上にあったコップをこぼし、執筆机が水浸しになってしまったような現場が出来上がるということね。」


「その通り、これで、現場の状況は説明が付くでしょ!」

 優美は目をキラキラと輝かせて、こちらに賞賛を求めてくる。


「残念だけど、それは不正解だよ。」

 優美はそれを聞いて、眉をひそめた。


「なんで、それっぽいでしょ。ミステリーとかでも氷を使ったトリックとかあるから、これもできるでしょ!」

「いや、その氷を使ったトリックは私も考えたけど、物理的、状況的、心理的にメイベリは氷のトリックを使うことができないの。」


 そして、私は氷のトリックの否定とメイベリが犯人でないことの論証を始めた。


 

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