信頼性のないダイイングメッセージ
阿僧祇
推理ゲーム
「オスカー、また事件か?
この国も随分物騒になったな。」
そう言うノイマンの顔はウキウキしていた。口では心配しているようなことを言っているが、内心はゲームを買ってもらう子供のように心躍らせているのだ。不謹慎であるが、殺人事件が未解決として処理されるよりはましだ。
「ああ、殺人事件だ。だが、犯人は分かっている。」
「どういうことだ? 解決しているじゃないか?」
「そうなんだがな。犯人には完璧なアリバイがあってな。そのアリバイを崩せない以上逮捕できないんだよ。」
「ほう、面白そうじゃないか!」
「そうだな。だがしかし、少し涼ませてくれ。今日はその事件の聞き込みで、一日中外に出っぱなしだ。」
私は彼の部屋にある首振りの扇風機の動きを止め、涼しい風を独占した。
「こんな暑い日じゃ、そうなるのも無理ない。」
ノイマンはそう言って、席を立つと、冷蔵庫に入っている水の入った容器を取り出し、コップに注ぐと、こちらに渡した。
「助かるよ。」
私はその水を一口飲んだ。キンキンに冷えていて、温まった体に染みわたった。
「じゃあ、涼んだことだし、事件の概要を伝えよう。」
私はコップを机の上に置いて、事件の概要を話し始めた。
「被害者は小説家のヒュームだ。彼は自分の家の執筆室で背中にナイフが刺さった状態で見つかった。現場の状況から、被害者は机で小説を執筆中に、後ろから何者かに刺されたと考えられる。
しかし、被害者は刺された後もしばらく息があったらしく、ダイイングメッセージを自身の血で机の原稿用紙に残していた。
そのダイイングメッセージには、【犯人はメイベリ】と書かれていた。だから、私達は真っ先に被害者の編集者であるメイベリを疑った。しかし、彼女には完璧なアリバイがあった。
犯行があったと推定される時間には、被害者の家から車で片道1時間の出版社にいた。犯行時刻、その出版社に働いている社員たちは、メイベリと一緒に会議をしていたと発言した。
それは緊急の会議で、被害者宅で朝から小説が出来上がるのを待っていたが、昼に呼び出されたらしい。」
「なるほど、それが完璧なアリバイと言うやつか。」
「そうだ。だから、メイベリは犯行の日の朝と夜に、被害者宅に訪れている。しかし、犯行時刻の昼にはさっきの様な完璧なアリバイがある。」
「……? ちょっと待て。その話から、被害者は昼に殺されたのに、夜に見つかったということか?」
「そうだ。被害者は勝手に自室に入られることを嫌っていたらしく、被害者が部屋から出てくるまでは、部屋の扉をノックすることすら許されなかったらしい。
だから、いつもの夕食の時間から3時間経っても出てこないことを不審に思った被害者の奥さんであるチェルメロが被害者の部屋を開けると、被害者の死体があったということだ。
この時、メイベリはその家のゲストルームで、被害者の小説が出来上がるのを待っていたらしい。発見される2時間前にチェルメロに案内されて、ずっとその部屋で待っていたらしい。まあ、2時間ずっと誰かが見ていた訳ではないから。ずっと待っていたという証拠はないがね。」
「なるほど、じゃあ、殺害現場の詳しい状況について教えてくれないか?」
「殺害現場は扉に向かい合った縦長の執筆机と本棚がたくさんある部屋で、執筆机の後ろには廊下とつながる別の部屋がある。だから、廊下からその部屋に入って、被害者の後ろから襲い掛かるのは簡単だろうな。
それで、死体は座ったまま、執筆机に倒れ込んでいて、死体の下には書き終わった原稿用紙がたくさんあった。そして、おそらく殺された時にコップの水をこぼしたのか、机は水浸しだった。実際、執筆机の下の床には、空のコップが転がっていた。ただ、水が死体の上にもかかっていたことが不思議な点ではある。
だが、ダイイングメッセージに水はかかっていたため、ダイイングメッセージの血は固まっていたので、ダイイングメッセージが消えていることはなかった。」
「なるほど、死体の上にまで水がかかっていたか……。
もう少し情報が欲しいな。被害者宅には、奥さん以外に住んでいる人間はいるか?」
「ああ、被害者の一人息子であるロイドがいる。
確か、被害者とロイド、メイベリは朝に三人で出会ったと言っていたな。その時に、緊急の会議が入ったことを伝えたらしい。そして、それ以降、ロイドは自身の部屋で、読書や映画などを見て過ごしていたと言っているので、アリバイはない。ちなみに、奥さんも家事をして過ごしていたから、アリバイはないと言えるな。」
「なるほど、その情報で、この事件の真相が分かったよ。」
「本当か!」
「ああ、じゃあ、一つずつ犯人が何をしたのかを解説することにしよう。」
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配布されたプリントには、そのような小説が書かれていた。これは絶対に、私の小説のパクリだ。だって、ノイマンとオスカーが役割を変えずに、探偵と刑事のまま出ている。
「ええ、今年から新しい試みとして、このような推理小説とゲーム理論を組み合わせる課題を作ってみました。
課題の内容としては、この推理小説を完成させることです。お分かりの通り、事件の概要は示されていますが、真相についてはかかれていません。なので、皆さんは事件の真相を書いてきてください。
この小説に関しては、私の勘違いが無ければ、読者に対してフェアであると思います。つまり、この配布プリントに書かれている情報のみで、事件の真相を突き止めることができます。
そして、これはゲーム理論の課題であることは忘れないようにね。
それじゃあ、これで今回のゲーム理論の講義はこれでおしまいにしたいと思います。それでは、皆さんのレポートを楽しみにしています。」
教授はそう言った後、黒板の文字を消し始めた。講義中が特殊な課題にざわざわしている。
私はこの特殊な課題を教授に出させた一因となっているので、皆には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
私は配布プリントの小説を再び読み直し、犯行の真相を探った。
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