あなたの最盛期はどのタイミング?

ちびまるフォイ

最盛期なんかいらなかった

「22歳です」


「……なにがですか?」


「あなたの最盛期が22歳です。

 この年齢のときには何をやっても成功するでしょう」


「本当ですか?」


「もちろん。恋愛ではモテ期。仕事は最高。

 なにをやっても大成功間違いなしです」


「すごい……」


「ただし、最盛期をすぎればもう人生で

 同じような幸運が訪れるタイミングはありません。

 悔いの残らないような最盛期をお過ごしください」


地元の自称「神」により最盛期を指示された。

もし22歳が自分にとっての人生の最盛期であるならば。


「こっからは下降線になるなら、楽しむっきゃない!!」


自分の人生の最盛期にやるべきことをリストアップ。

なにをやっても大成功するのなら、なんでもやってやると思った。


そして迎えた22歳。

誕生日を迎えた瞬間に好きな人から連絡がくる。


「誕生日おめでとう、実は前から気になってて……」


「こっちはいつでも準備OKさ!!」


恋愛シミュレーションでももうちょっと過程を挟む。

でも今の自分は人生の最盛期。まさに無敵モード。

身体が虹色に点滅していることだろう。


「さあ、まだ最盛期は始まったばかりだ!!」


最盛期にやるべきリストを見ながら次の行動を起こす。


学校では生徒会に入り、

自分のツルの一声で学校改革が進んでいく。


「ああ、本当に今まさに人生の最高峰なんだ!」


やることなすことすべてうまく行く。

それだけじゃない。


健康な身体。さえた頭。肌の調子もいい。


自分のポテンシャルが最大限に引き出されている今。

自他ともに人を引き付けるカリスマ力すらある。


「さあまだまだ人生を楽しむぞーー!!」


町内会のくじびきで当てたハワイ旅行を楽しみ、

何人もの恋愛を楽しみ、友達との熱い友情を深める。


そんな1年はあっという間だった。


次の誕生日を迎えたとき、まるで電池が切れたように身体が重くなった。


「あ……もう最盛期終わったのか……」


楽しい飲み会あけの二日酔いのように気分は沈む。

この先、去年ほど充実した1年がないと思うとますます落ち込んだ。


「あとの人生は"あの頃は良かった"と過去をいつまでも噛みしめて生きていくのか……」


なんてみじめなんだろう。

もうひと花さかせることはできないものか。


自分の足は自然と「神」のもとへと向かっていた。



「……というわけなんです。最盛期をもう一度与えてはくれませんか」


「ムリに決まっています。1度だから"最"盛期なんですよ」


「そこをなんとか」


「ムリです。人生は浮き沈みがあるんです。

 そんな毎日が最高の1日であるわけないでしょう」


「……じゃ、逆をいえば不幸な日があれば、良い日もあるってことですか」


「なに考えてるんです?」


「厄年をどこかに設定すれば、最盛期をもうひと盛り上がりできるかなと」


「……できなくはないですが、おすすめしません」


「大丈夫! あなたの意見は聞いてないので!!」


どうやら自分のアイデアは不可能ではないらしい。


神の力によって厄年を設定し、人生が沈む部分を作ったなら

その反動で人生が盛り上がる部分……つまり最盛期を作ることが可能。


「で、そこに最盛期と厄年を設定するんです?」


「うーーん。悩むなぁ」


ショートケーキのいちごを先に食べるかあとに食べるか。

そのような究極の二択を迫られている気がする。


「最初に厄年を持っていってから、後半に最盛期を……」


「わかりました」


「あ! いややっぱり逆にします!!」


「もう変えられないですよ」

「かまいません!」


最盛期を人生の前半部分に何個も設定し、

人生の後半には同じ数だけの厄年を設定した。


最初に最盛期を迎えておけば、人脈やら権力やら金だって手に入る。

その後に厄年を迎えたとしても、最盛期に得たものがあるのでフォローのしようがある。


先に厄年を迎えたら、この先に最盛期があったとしても

底辺の状態からさらに底辺へと落ちる地獄を味わうハメになるだろう。


「まさに完璧だ。最盛期でたっくさん貯金を作るぞ!」


ふたたび日はめぐり二度目、三度目の最盛期を迎えた。

完全に人生を楽しむことに特化した初回とはまるで意味合いが異なる。


この先迎える厄年への準備をするための最盛期とし、

貯金をため、人脈を整え、会社を設立し、家庭を持つ。


幸せのセーフティネットをあらゆる形でしかけた。

もう前後左右、死角がないほどに。


「はっはっは! 最盛期はやっぱり最高だ!

 なにをしたってうまくいく!

 これだけ整備されてちゃどんな不幸がきても怖くないぜ!!」


さんざん最盛期を満喫したあと、ついに冬の時代。

厄年がやってきた。


けれど怖くなかった。


「これだけ入念に人生設計したんだ。

 どうあがいても不幸になんてならないぞ」


そう思いながら電車を待ってたときだった。

靴紐を踏んづけてしまいころんだ拍子に、回送電車に頭をぶつけてしまった。


次に目が覚めたのは病院。


「大丈夫ですか? 自分が誰だかわかりますか?」


「え、ええ……。ああ、命はあったんですね。

 厄年だから死んだかと思っていました」


「一時は命が戻るか危険な状態だったんですよ……」


「はは。厄年なんてこんなものか。

 どんなに悪くっても命までは奪えやしないってわけね」


「それと、落ち着いて聞いてほしいんですが……。

 脳の損傷がひどく、その手と足が……」


その言葉にぎょっとした。

身体を動かそうにも動かない。


「そ、そんな……」


自分が頭しか動かせない状態だと気づいた。


「それとご家族も面会に来ていますよ」


矢継ぎ早に病室へ家族がやってきた。

その顔は心配している様子も見られない。


「あなた、お医者さんから話を聞いたわ。

 もうあなたの身体は一生動かせないって」


「……」


「となると、この子を育てていくのはムリだし

 あなたと子供の面倒を同時に見るのもムリ。

 だから別れることにしたわ。はいこれ離婚書。

 あなたは身体うごかせないから近くのホームレスに代筆してもらったわ」


「ちょ、ちょっと!?」


「ああ、それと待合室にあなたの会社関係者も来ていたわよ」


回転寿司のように家族と入れ違いで社員がやってくる。


「社長。社長がそんな状態なので、

 以降の会社は我々がやっていきますのであしからず」


「いやそんな勝手に……!」


「もちろん、社長の口座もこちらで運用させていただきます。

 これまでお世話になりました」


「お、俺の金ーー!!」


次々に自分が積み上げてきたものが厄年ブーストで瓦解していくのがわかる。

それは人が来るたびに死刑宣告のように続く。


「か、看護師さん……教えて下さい。

 あと俺にはどれだけ面会待ちが来ているんですか?」


「えっと……そうですねぇ」


看護師はひと呼吸置いてから答えた。



「あと100人は待っているみたいですよ」




やっぱり人生は先に厄年を迎えたほうがいいと思った。

けれどもう遅い。


100回目の面会時には自分が手に入れたすべてを失い、心も壊れてしまった。

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