Ⅰ 食糧の危機(1)
そんな彼ら禁書の秘鍵団の面々が、新天地へ護送される魔導書『
「──露華ぁ〜腹減ったぜ。飯はまだかあ?」
「わかってるネ! 今作ってるとこだからおとなしく待ってるネ!」
目つきの悪い黄色の瞳で厨房内を覗き込む、青バンダナを頭に巻いた仲間の海賊(じつは人狼)リュカ・ド・サンマルジュの催促に、燃え盛る炎の上で手持ち鍋を振るいながら、ひどくウザったそうに露華は答える。
この桃色のカンフー服を着たツインお団子ヘアの東方系ロリ少女・
それが、料理番である。
本来はもともと海賊で船旅にも慣れていたマルクが料理を担当するか、あるいは当番制にするかという話になっていたのだが、そこには重大な盲点があった。
まず、金髪碧眼の三つ編みおさげという可愛らしい外見をしていながらも、船長マルクは海賊であるとともにベテランの魔術師でもあり、医術の心得もあったために薬草やハーブをふんだんに使った身体に良い料理を作るのだが、完全に味は度外視しているので苦くて食べられたものではないのだ。
また、他の団員達も騎士とその従者、錬金術師にはては人狼…と、いずれも料理に関してはずぶの素人で、こいつらに任せていては美味しい食事を期待できそうになかったのである。
その点、露華だけは違っていた。幼い頃より今は亡き親族達から故郷の
「ハイヨ! 本日のメインディッシュ、ポテトとソーセージの唐辛子炒め、一丁あがりネ!」
そんなわけで陳露華は、今日も彼女達の海賊船〝レヴィアタン・デル・パライソ号〟の厨房で料理の腕をふるっている。
しかし、アジトのあるトリニティーガーならば外食に出ることもできるのだが、すべて露華頼みのこの長い船旅にあっては、段々に団員達の注文もワガママになってゆく……。
「──ふぅ……今日も各種刀剣素振り百本づつで良い汗をかいた……だが、いささか小腹が空いたの。露華、何か栄養のあるものを作ってくれ。肉っぽいものがよいの」
常に中世風の甲冑をフル装備している時代錯誤なもと騎士、ドン・キホルテス・デ・ラマーニャが、兜のバイザーを上げて額の汗を拭き拭き、サウナ上がりのように
「あ、僕も今日は操船で索具をずっと引っ張っててお腹空いたんで、旦那さまの分と二人分お願いします」
また、まだ若いが仕事のできる、ドン・キホルテスの優秀な従者サウロ・ポンサも、心地よい疲労感に満ちた表情で主人ともども間食を注文する。
「仕方ないネ。厚切りベーコンの角煮があるからそれを食べるネ」
そんな主従二人に露華はやむを得ず、眉を「ハ」の字にしながらも作り置きの料理を出してきてやる。
まあ、彼らのような場合はまだよい……もっとワガママな者達もいる。
「華ちゃん! もうすぐおやつの時間だし、なんか甘いもの食べたいなあ。お菓子とか作ってくれないかなあ」
主従に続きやって来た、ツイン三つ編みおさげに赤ずきんをかぶる錬金術師の少女マリアンネ・バルシュミーゲは、無邪気にも三時のお茶のおともを露華に要求する。
「ああ、露華。夜更かしして魔導書の研究してるとお腹空くんだよねえ……悪いんだけどさ、なんか夜食用意してくれない?」
さらには船長マルクもやって来ると、面倒臭くもそんな夜つまむ軽食まで作るよう頼んでゆく。
そして、極めつけが真っ昼間から酒を飲んでいたリュカだ……。
「うぃーく……いよう! 露華ちゅわ〜ん! 酒の肴がなくなったから何か作ってくれないかなあ〜?」
すっかりできあがってしまっているリュカは、食事の支度で忙しいのもおかまいなく、もっと酒を飲むための肴がほしいとおちゃらけた態度でせがんでくる。
「…モオ……オマエ達、いい加減にするネ!」
身勝手な注文をつけて甘える仲間達に、プルプルと握った拳を震わせながら、ついに露華の怒りが爆発した。
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