序章 目覚め
重い瞼を無理やり開くと、今まで見たこともないような豪華な天井の下にいた。
いや、天井だけじゃない。身を横たえる寝具も壁も窓も一目でそれとわかるほど壮麗で――
「きゃあっ!」
思わず喉から悲鳴が漏れた。
朝日を透かす窓のガラスに大きな蛇が這っていたのが見えたからだ。蛇は慄く私に頓着することなく、まるでそこが自分の住処であるかのように落ち着いている。目が離すことができずに深緑色の鱗を見詰めていると、
「騒々しい目覚めだな」
不意に背後から声をかけられ、今度は悲鳴も上げられないほど驚いた。
「その様子だと体に異常はなさそうだな」
振り返ると、この世のものとは思えないほど美しい男性が立っていた。
誰だろう、この方は。麻痺した頭で考える。身分の高さは纏う衣服と放つ威厳から容易に察しがつく。真っ直ぐで艶やかな髪も、切れ長の眼に光る大きな瞳も、夜空を切り取ったように真っ黒で、白い肌に幻想的ともいえる対照を描いていた。
まさか天使様? いやしかし、そう呼ぶには少々、
「聞こえているなら返事をしろ!」
気が短すぎるように思う。ベッドの上で身を起こす。喉が掠れて声が詰まった。男はそんな私を無遠慮に見詰め、
「何があった。知っていることは全て話せ」
命令することに慣れた口調で言った。
本当に誰なのだろう、この方は。そして、ここは……。
「言っておくが、このカイ・ラグフォルツに嘘は通用しないからな」
――カイ・ラグフォルツ。
言葉の稲妻が頭の靄を消し飛ばした。同時に、辛うじて繋がっていた意識の糸の最後の一本を焼き切る。
その名は、まさか。
「ぼ、暴風公爵……」
やっとの思いでそう漏らし、私は再び意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます