魔女とポーションと寝かしつけ

LeeArgent

1日目:ポーション作り

 環境音がフェードインする。

 吊り下げられたドライフラワーが風に吹かれる音。

 箒が床を履く音。

 風で本がめくれる音。

 紙の上をペンが走る音。


 十秒ほど環境音が流れた後、唐突に衣擦れの音が前方から聞こえる。

 音はヒロインから聞こえてくる。動き回るヒロインから、暫く衣擦れの音とヒールパンプスの足音が聞こえる。

 足音が近付いてくる。

 リスナーの目の前で音が止まる。


「……どうしたんだい、そんな眠そうな顔をして

 小さな子供じゃないんだから、一人で寝れるだろう?」

「私は、まだ寝ないよ。今日のうちに、店の商品を作り終えてしまわないと」


 足音がリスナーから離れていく。

 ヒロインが椅子を引く。椅子を引きずる音がする。そして、着席。

 リスナーはヒロインの元に向かう。

 リスナー自身から聞こえる、革靴の足音。椅子を引く音。ヒロインの左隣に着席。

 

 魔女であるヒロインは、魔法を使う。

 一瞬の風切り音。

 一秒ほどの、魔法がかかる音(ウィンドチャイムの音で魔法をイメージ)。


「鍋で沸かした夜露を、魔法の火で沸かして……」


 かまどに火が灯る。薪が爆ぜるパチパチという音がする。

 すぐに、リスナーの前方から、湯が湧く音がし始めた。続いて、湯をおたまでかき混ぜる音がする。

 ヒロインが、乾燥したハーブの葉を鷲掴みにする。葉が擦れ合うカサカサとした音、葉が割れるパキパキという音が聞こえてくる。


「レモンバームとラベンダーを、夜露の中に」


 ボコボコと激しく湯が湧く。

 一秒、ウィンドチャイムの音がする。ヒロインが魔法を使い、火を弱める。薪の音が少しだけ大人しくなる。

 再び、魔法を使う音がする。


「ロートスの実を、魔法で細かく切ってしまおうか」


 まな板の上で、包丁がナツメほどの大きさの果物を切っている。子気味良い音がする。


「君は早く寝てしまいなさい。

 魔法使いの弟子としての勉強は、明日でもできるんだから。

 それとも、もう少し私の作業を見てるかい? 明日きちんと起きれるなら、それでもいいけど」


 暫く黙る。

 風が優しく吹き抜ける音がする。パラリと本のページがめくれる。

 湯が湧く音が大きく聞こえる。

 ややあって、ヒロインがため息混じりに笑う。


「ふふ、仕方の無い弟子だね。

 じゃあ、手伝ってもらおうか」


 風切り音がする。魔女が杖を振るイメージ。

 ヒロインが魔法を使う。ウィンドチャイムの音がする。

 テーブルに、まな板、包丁、果物が置かれる音。


「ロートスの実を、半分に切ってくれるかい?」

「……何を作っているのかって? 店に並べるためのポーションを作っているのさ」


 いつくかの果物が机を転がる音。

 

「君には教えたっけ? 魔法植物の、ロートスのこと。

 君に渡したその木の実はね、強い忘却効果と催眠効果を持つ、魔法植物の実だ。このポーションには、それの果汁を使うんだよ」


 果物を切る包丁の音がする。リスナーが果物を切っているところをイメージ。


「魔法植物の扱いは、気をつけなきゃいけないよ。大概が、かなり強い毒性を持つからね」


 包丁の音が止まる。


「そんなに怖がらなくても大丈夫さ。口に入れなきゃ、大概のものは平気だよ。

 切り終わったら、ちゃんと手を洗うように」


 暫く包丁の音がする。

 十秒後、音が止まる。


「ありがとう。

 これを、鍋の中に入れて……」


 湯の中に果物を入れる。水が跳ねる音がする。

 おたまで湯をかき混ぜる音、ボコボコと湯が沸騰する音がする。

 ヒロインが慌てた声を出す。


「おっと……」


 ウィンドチャイムの音。魔法を使う音をイメージ。

 かまどの火が消える。薪が爆ぜる音も消えてしまう。

 暫くは湯が沸騰していたが、次第にボコボコ音が消えていく。


「あとは、これを瓶に入れるだけ」


 ヒロインがその場を離れる足音。

 リスナーから足音が離れていき、すぐにまた近付いてくる。

 ヒロインが幾つか瓶を持ってくる。ガラスが触れ合う音がする。


「少し作りすぎてしまったな……」


 瓶をテーブルに並べていく。十本分、瓶をテーブルに置く音がし、続けてヒロインが椅子を引く音を立てる。


「この瓶に詰めて冷ました後に、店に並べるんだ」


 出来上がったポーションをおたまですくい、瓶に注ぐ。


「ほんのり甘い香りのする、ロートスのポーション。精神を安定させたり、良い眠りをもたらすのに使うものだよ」


 リスナーの顔を見て、おかしそうに、ふふっと笑う。


「いやいや。ただの人間には売れないよ。これは魔法使いが使うもの。量を間違えると、毒になってしまう代物だからね」


「こうやって、瓶にコルクで蓋をして……」

 

 瓶にコルク栓をする。コルクと瓶が擦れる、キュキュッという音がする。


「可愛らしく、リボンで飾り付けてあげて」


 衣擦れの音。小瓶の口のくびれに、リボンを結びつける音をイメージ。


「はい。できた。これをあと九つ」


 ポーションが入った瓶を、机の隅に押しやる。瓶と机が擦れる音がする。


 ヒロインは、新しい空瓶に手を伸ばす。ガラス同士が触れ合う音がする。


 瓶をヒロインの手元に引き寄せる音。

 おたまでポーションをすくう音。

 瓶にポーションを注ぐ音。

 コルク栓を閉める音。

 リボンを結ぶ音。


 一連の音が五回暫く繰り返される。


「あとはもう大丈夫だよ。手伝いご苦労さま」

「君は早く寝なさい。明日も早いんだから。

 私? 私はまだ寝ないけど」


 引き続き、ポーションを瓶に詰める。


 瓶をヒロインの手元に引き寄せる音。

 おたまでポーションをすくう音。

 瓶にポーションを注ぐ音。

 コルク栓を閉める音。

 リボンを結ぶ音。


 音が鳴る中、ヒロインはクスクス笑いをもらす。


「そうか。もう少し、魔法の勉強をしたいのか。勉強熱心だね」

「弟子の頼みなら、教えてあげようじゃないか。ただし、これが終わってからね」


 やがて瓶詰めの作業が終わり、暫く続いていた音が鳴り止む。


「さて、ポーション作りも終わったことだし、移動しようか」

「君の部屋で勉強しよう。疲れたらいつでも寝れるように」


 ヒロインが椅子から立ち上がる。

 コツコツと、ハイヒールの靴音がして、ゆっくりフェードアウトしていく。

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