選択肢0-2Ka:(カイル視点)

 焼け落ちた家々、荒らされた畑、そして横たわる人々と独特な鉄の香り。ボヤきながら、あるいはなるだけ眼を背けながら、その中を歩き回る兵士達。

 その光景を見つめる青髪の少年の瞳からは、既に光が消えていた。


「カイル、見るんじゃないっ!」


 少年の父親は、彼を自分の後ろへと追いやる。しかし父親の股の下から、少年は尚もその光景を覗き続けていた。

 生きた村人は一人もいない、五体満足な村人も一人もいない、その光景を……。

 頭のない者、足のもげた者、ハラワタを引きずり回された者、そして食われた歯型の跡。少年の眼前にある遺体は、どれもこれも何者かによって弄ばれた形跡があった。


「何をしている!」


 少年の父に近寄ってきた兵の一人が、不愉快そうに声を発した。


「この村に領主さまの像を作るよう、依頼を受けまして……」


 兵士に向かって、父が腰を低く畳む。


「見れば分かるだろう! 今はそれどころではない!

 すぐにここから立ち去れ! バカがっ!」


「ヘイ! どうも気が利きませんで申し訳ございません。こんな事になってるとは、知らなかったものですから……。

 ただ上役の方に何か聞かれましたら、ジョージが契約通り確かにこの村に来たと、それだけ報告して頂ければ……」


「とっとと失せろというのが聞こえないのか! 叩っ切るぞ!」


「あっはい、すいません……、どうもすいません、すいません」


 父はペコペコと情けなく頭を下げ、少年を連れて馬車へと戻る。


「さ、ゴータルートに帰るぞ」


 父の言葉に頷いて馬車に乗り込もうとしたその時、少年の後ろから兵士達の話声が聞こえてきた。


「また女が連れ去られているな」


「ああ、女一人で三匹ゴブリンが増えると計算しても、かなりの数になるぞ……まったく、戦争が終わったばかりで軍費も不足しているというのに」


 馬車に飛び乗った少年は咄嗟に耳を塞ぎ、その村の記憶を頭から消そうと努力したが、10年近く経った今でもその光景はまだ鮮明に脳裏に焼き付いている。



         ◇      ◇      ◇



 → 第一話:お手洗い狂騒曲(https://kakuyomu.jp/works/16818093080650481630/episodes/16818093080650798713

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