情報
ローレライのアジト、その場所は当たり前のことであるが秘匿されている。
六大同盟とあればコンタクトを取れるいくつかのアジトは幹部クラス程度であれば知らされているが、それ以外の者には分からないだろう。
では、今でこそ全く別の組織のボスであるヨストがここに来れた理由は何だろうか。
霧消が、ボスに就任したとすればまず行うことは既存の機密情報保管場所及び施設の移動だろう。
だが、どういうわけかヨストはここにいる。
いや、どういうわけか、ローレライアジトであるこの場所は変わっていない。
理由は簡単だった。
動かせないものがある。
尚且つ重要なものであり、霧消は極力そこを離れられないという理由があった。
そしてヨストもそれを重々承知であるためにここに来た。
今まで散々アピールしたことで、霧消はこちらが来ることを分かっている。
ならば、何処に行けばいいかも察するだろう。
そうして現在に至るのだ。
そんなローレライのアジトにて陽炎ボス、ヨストはシロサヤを見据えた。
異能倶楽部の幹部、その中でもボスに次いで権力を有しているのはヨストも知っている。
だが、そんなことよりも、今は両組織は交戦中にある。
だから、彼女がこんなところにいるのはおかしな話だった。
幹部と言う限られた駒で戦っている中、その一人である彼女がこんなところにいるのはおかしい。
ヨストは他を出し抜いてここにいる。ツムギがここにいるのとでは話が違った。
ヨストは表情になど出さなかったが、それを見透かしたかのようにツムギは笑った。
「貴方も、全く気付いていない、なんてことはないでしょう?」
実際、予想はしていた。
だが、ごくわずかの確率しかないと思っていた。
始めからすべてこの女、いや、この女の後ろでほくそ笑む異能倶楽部ルカによって踊らされていた。
「と、すると、敢えて幹部を日のもとにさらしたのも作戦か」
少し思い返すようにしてヨストは言った。
それは本来作戦前に出歩いている可能性は極めて低いはずの幹部たちの存在だった。
そもそも今回の抗争はそこを起点にして両組織とも動いていた。
「ええ。そして敢えて戦闘に不向きな川原千佳を囮に置くことで」
「こちらに罠だと認識させなくしたと」
ツムギの言葉を引き継ぐようにしてヨストはそう言った。
少なくとも三人の幹部が運よく人の目の届くところにいた。
そんなことがあればまず疑う。
だから、幹部をぞんざいに扱わないだろうという先入観につけこんで最悪駒を失う可能性の伴う行動に出た。
この作戦を考えたのが、ボスであるルカなのかシロサヤなのかは知らないが、どちらにせよ、仲間などと言う考えはないのだとヨストは察した。
だが、それは間違いだった。
実際この作戦を考えたのはツムギだ。当然ルカであるリオは作戦以前に両組織が戦っていることなど知らない。
一見、ヨストが思うように幹部を駒としか見てない、そう言ったように映るのも仕方のない事だった。
だが、ツムギ自身、幹部の皆を何よりも信頼して大切に思っている。
ただ、今回はそれらをひっくり返すほどの存在が関わっていたに過ぎなかった。
リオの存在。
それは何よりも優先されることであり、例え自身の信頼する幹部やそれだけでなく学校では友人として過ごすユキナでさえもそれと比べれば失う事すらいとわなかった。
それだけの話だった。
「まあ、結局気付いても、陽炎は乗って来た。でしょう?」
「…………」
ヨストは押し黙った。
結局のところ彼女の言う通りであった。
「別に陽炎は異能倶楽部が動くと言う情報を得たからそれを利用して、監視の目から逃れてこの場に来れればよかった。勝敗についてはどうでもいい。だからこそ今回の件は好都合とも言えた」
陽炎、いや、ヨストの目的はレイメイ、そしてそれを奪った霧消である。
今更異能倶楽部を討ち果たして六大組織に返り咲こうとはヨストも思っていなかった。
そこまで見抜かれているようだった。
ヨストは息をそっと吐いて、ツムギを見た。
「そこまでわかっているのなら、大人しくそこを退いてくれると嬉しいんだが。私の目的は君じゃあない。レイメイ、そしてそれを奪った霧消だ」
きっと霧消から色々と聞いているのだろう。
恐らく先日の集会ではこちらが差し向けた狙撃者を発見したのはルカだと言う。
そこで貸しを作り、それを理由し、一時の協力体制にまでこぎつけた。
戦力の貸し借りと言ったものではなく、恐らく情報の類を霧消から引き出したのだろう。
ローレライとヨストの関係はそもそも当時から六大組織の一角にいて、あの時も力を貸している異能倶楽部としては知らぬはずはない。
そして貸しと言っても、異能倶楽部側ががっついて何かを要求できるほどの事でもない。
そもそも、メンツに限った話だけで、狙撃されていれば、各々で対処は出来て痛手にはならなかっただろうから。
あくまで、霧消が負い目を感じてこその物だ。
だから、聞きだしたのは恐らく陽炎の幹部の数だろう。
異能倶楽部の幹部の運用の仕方を見れば概ね予想はつく。
その程度が精々だ。
そして、陽炎にはスパイが居た。
それは恐らくローレライの息がかかった者であり、そいつが幹部の数といった情報を流した。
そして何より、今回の作戦のもととなった、異能倶楽部の幹部三人が少なくも外に出ていると言う情報。
それを持ってきた人物こそがスパイ。
ヨストは頭に一人の顔を思い浮かべる。
冬廣武久。
ヘルマンと特に親しくしていた男だ。
こいつが持ってきた情報によって、陽炎は動いた。
川原千佳と言う弱点を晒したことによって、一瞬気を抜いた。
だがそれでも、何か思惑はあるだろうと見抜いた上で利用しようと考えてた。
そして陽炎がそう動くだろうと冬廣をつかって情報を送ることを考えたのはやはりルカだろう。
そのルカが唯一信頼を置いているであろうその女にヨストは言った。
「で、なければ、ボス、ルカでも連れてこい。君には私を阻む資格はないよ」
その時、ヨストが引き連れていた女が一瞬のうちにツムギへと迫っていた。
いつ動いたのか分からなかった。
恐ろしく速い移動……ではない。
接近させるまで気付かせない。
そう言う結果を生み出す異能であるとツムギは考えた。
だが、もう手遅れ。
彼女が動いても攻撃を避けることは出来なかった。
異能がなければ。
だが、その異能をツムギが使うことはない。
単純な話、彼女だって自分の代わりに動くものがいる。
先ほど合流し、一緒にこの場まで来た女、二ツ神ネッカ。
その少女が、間に割って入った。
どちらか、攻撃に移るか。
そう考えた時、あっさりと陽炎幹部の女は引いた。
バックスッテプでヨストの近くまで後退した女をネッカは見た。
(でっか)
ブラをつけていないのか、大きく揺れる胸に意識を取られた。
あの大きさで痛くないのだろうか。
いや、その前につけてないのに垂れないのだろうか。
別にあれが異常なだけで自分だってCはあるし、脱いだら凄いし。
などと考えつつ、提案をした。
無論、揉ませてくれなどと言った提案ではない。
「あっちで、やらない?」
簡単な話、場所を移そうと言うのだ。
ネッカとしてはツムギがヨストと交戦することを望んでいる。
相手側はボスを連れてこうと主張しているが、異能倶楽部としては今ボスがいないからという理由で引き下がることは出来なかった。
公式な六大同盟における集会の場でルカが異能倶楽部で受け持つと宣言している以上、理由があっての情報提供はともかく他の組織に対応を任せることは出来なかった。
ネッカの言葉に、女はヨストを見た。
ヨストが頷くと女も口を開く。
「わかりました」
高くきれいな声がそう言った。
「さあ、あとは君だけだ」
ヨストはこの場から動こうとする二名を見て急かすようにそう言った。
ただ、そんなヨストにツムギは言葉を返した。
「わかったわ。でも、異能倶楽部ボスは来たわよ」
その言葉に、ヨストは振り向いた。
一瞬、気付かなかった。
あまりにも一般人然として気配に完全に危険察知が働かなかった。
こんなところに一般人など来れるはずもないだろうに。
不気味な少女だった。
顔には影が差し、蒼い瞳がこちらを覗く。
そこにいたのは紛れもなく、異能倶楽部ボス、ルカだった。
「冬廣からアイツが相手をしに行ったと言うから、ここに来ることはないと思っていたのだか。そう言えば裏切っていたのだったな」
まだ、その場から離れていなかったネッカと女が驚くのを他所に、ヨストは言った。
冬廣がスパイと言うのなら、先ほどの報告も嘘だったのではないのかと。
報告によればヘルマンはルカに挑みに行ったのだと言う。
それが本当であれば、ここに彼女がいるはずがない。
そんな考えが頭によぎったのだが、不意に視界にヘルマンを見た。
まるでものを扱うかのように彼女に引きづられた身体。
それは紛れもなく陽炎幹部における最強の駒であった。
まさか、この短時間でヘルマンを倒して此処まで来たと言うのだろうか。
「そうか。冬廣の報告に嘘はなかったようだ」
裏切ったのは確かだが、その情報に嘘はなかったようだ。
なら仕方ないと、改めてヨストは向き直った。
「なら仕方がない。歓迎する、異能倶楽部ボス、ルカ」
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